メンタルアカウンティングとは、「心の会計処理」のことです。
たとえば、「働いて貯めた100万円」は慎重に使おうとしますが、「宝くじで当てた100万円」は散財してしまう確率が高くなる傾向があります。
普通に考えたら、同じ100万円なんだから、使い道に変化は起きないはずなのですが、我々はそれを無意識のうちに心の中で会計し、使おうとします。
しかし、なぜこのように使い道に差が生まれてしまうのでしょうか?
というわけで本日は、
- メンタルアカウンティングとは
- メンタルアカウンティングの具体例
- 無駄な消費を減らす8つの方法
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
メンタルアカウンティングとは
心の中で行う会計処理のこと
メンタルアカウンティングの提唱者
アメリカの経済学者であり、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏により提唱されました。
メンタルアカウンティングは、「心理会計」や「心の家計簿」と訳されます。
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メンタルアカウンティングの具体例
では、いくつか具体例をみていきましょう。
- 拾った50万円、貯めた50万円
- 100円のおにぎり
- 財布の中のお金
例1:拾った50万円、貯めた50万円
同じ50万円でも、状況によってその扱い方がまるで違ってきます。
たとえば、「拾った50万円」は浪費に使う可能性が高まりますが、「貯めて得た50万円」はそのような浪費に使わないでしょう。
なぜなら、「貯めて得た50万円」は、努力の結晶なのでより慎重に使おうとするからです。
例2:100円のおにぎり
100円のおにぎりでも、状況によって「高い!」と感じたり「安い!」と感じたりすることがあります。
たとえば、あるお店に行くと、おにぎりが100円で販売されていました。
これにあなたは「なんて高いんだ!」とブチギレます。
しかし、別のお店に行くと、定価120円のおにぎりがセールで100円になっています。
それにお得感を感じたあなたは「安い!」と感じ、喜んでおにぎりを購入しました。
だったら、ひとつ前のお店でおにぎりを購入しても一緒なのでは…
例3:財布の中のお金
財布の中に入っているお金によって、特定のものを購入する痛みが変化します。
たとえば、あなたの財布には今10万円が入っているとする。
その時に、1万円の服を購入することに痛みを感じることはないでしょう。
しかし、財布の中に2万円しか入っていなかったとする。
すると、1万円の服を購入することに、かなりの痛みを感じることでしょう。
メンタルアカウンティングの実験
では、ここからは行動経済学者ダニエル・カーネマン氏のシナリオ実験を紹介します。
次の2つのシナリオのうち、より深く後悔するのはどちらでしょうか?
ポールはA株を持っています。
去年1年間、ポールはB株に乗り換えようと迷っていましたが、結局そうすることをしませんでした。
ところが、今になってもしもA株を売ってB株に乗り換えていたら、1,200ドルの利益が得られていたということがわかりました。
ジョージはB株を持っていたのですが、去年A株に乗り換えました。
ところが、今になってもしもB株を持ち続けていたら、1200ドルの利益が得られていたということがわかりました。
直感で分かると思いますが、ジョージ(シナリオ2)の後悔の方が大きいということが分かるでしょう。
実験の結果をみても、被験者の92%がジョージと答え、ポールと答えたのは8%に過ぎませんでした。
どちらも、1,200ドルを儲け損なったということは一緒なのに、後悔に差が生まれるのは面白いですよね。
人は、「行動したことによる後悔」の方が、「行動しなかった時の後悔」よりも大きくなるということが分かっています。
たとえば、ジョージ(シナリオ2)の場合は、利益が出るはずだったB株を持ち続けていましたが、A株に乗り換えるという行動をとってしまいました。
なので、その分の後悔が大きいわけです。
メンタルアカウンティングと関連のある心理学
- ハウスマネー効果
- サンクコスト効果
- 参照点依存性
心理学1:ハウスマネー効果
コスト(時間・労力)をかけて得たお金を慎重に扱うという心理現象
※ハウスマネー効果は、経済学者リチャード・セイラー氏により提唱されました
例:働いて得た50万円
たとえば、あなたは1年間一生懸命働いて、50万円のお金を貯めることができました。
さて、あなたは次のうち、どれにそのお金を使おうと思いますか?
- そのまま口座に預けておく
- 投資に回す
- キッチンを新品にする
- 豪華クルーズに申し込む
きっと、あなたは①②③のどれかを選択したのではないでしょうか?
心理学2:サンクコスト効果
コスト(お金・時間・労力)をかけた対象の価値を高く見積もるという心理現象
思考実験
熱心なスポーツファンであるAくんとBくんがいます。
彼らは、70キロほど離れた場所で開催されるバスケットボールの試合を観戦する計画を立てていました。
しかし、AくんとBくんではチケットを手に入れた手段が全く違います。
- Aくん:前売り券を買った
- Bくん:友達からもらった
さて、そんな時、当日の夜は吹雪になるという予報が出ています。
AくんとBくんでは、どちらの方が観戦に行く確率が高いでしょうか?
明らかにAくんですよね?
なぜなら、AくんはBくんと違って、チケットにお金というコストを支払っているからです。
だから、Aくんは観戦に行かなかった場合、「もったいない…」という感情を持つことになります。
一方、Bくんはというと、無コストでもらったチケットなので、仮に行かなかったとしても損という感情を持ちません。
心理学3:参照点依存性
人の感情は絶対的なものではなく、基準(参照点)によって変化するという傾向
例:おにぎり
「定価100円のおにぎり」と「普段は120円だが、セールで100円のおにぎり」では、どちらの方が幸福感を感じるでしょうか?
明らかに後者ですよね?
なぜなら、同じ100円のおにぎりでも、後者は20円のお得感を感じることができるからです。
このように、同じ価格のものでも、参照点(基準点)が違うだけで、幸福感は全く違ったものになるのです。
無駄な消費を減らす8つの方法
- 新しいメンタルアカウントを開設しない
- 多額のお金を持ち歩かない
- クレジットカードの使用を控える
- 口座を1つに絞る
- 口座を分ける
- アンカー(基準)に気を付ける
- 購入後に気を付ける
- 高い買い物をしている時は気を付ける
方法1:新しいメンタルアカウントを開設しない
どんどん新しいメンタルアカウントを開設しないようにしましょう。
たとえば、実際の口座として「食費用の口座」「娯楽用の口座」「貯金用の口座」という3つの口座を持っているとする。
ある日、服屋に立ち寄った時に、何とも可愛い服と出会います。
それを本来は、「娯楽の口座」でやりくりしなければならないのですが、あまりの欲しさに「服の口座」という新しい口座を開設し購入することに。
このように、新しい口座をどんどん開設してしまうと、浪費が増えていってしまいます。
方法2:多額のお金を持ち歩かない
お財布に入っている金額によって、特定の商品・サービスを購入する痛みはまるで違ってきます。
たとえば、財布に50万円入っている場合と1万円しか入っていない場合では、5,000円のモノを購入する痛みが全く違います。
50万円の場合は財布の中の1%ですが、1万円の場合は50%です。
つまり、多くのお金を持ち歩くと、支払いの痛みは小さくなるので、それだけ消費が増えてしまうのです。
方法3:クレジットカードの使用を控える
現金よりもクレジットカードで支払った方が、購入への痛みが半分ほどになるということが分かっています。
実験:マサチューセッツ工科大学
マサチューセッツ工科大学のMBAコースの学生たちを対象に、
「心理学の実験に参加してくれたら、その中から1名に有名バスケットボールの試合のペアチケットを差し上げます!」と告げます。
※このチケットはなかなか手に入らない
しかし、そのチケットはただではなく、実験の参加した学生たちがサイレント・オークション方式で競り落とすというものでした。
その際、学生たちを2つのグループに分けます。
- 現金での支払いのみ(近くのATMに駆け込んでOK)
- クレジットカードでの支払いが可能
そして、それぞれのグループの学生たちが、チケットにどれくらいの値段を付けるのか? を調べました。
現金グループは平均28ドル、クレジットグループは60ドルまで出すという結果となったのです。
このように、現金と比べると、クレジットカードの方が消費が行われやすくなるということがわかりますね。
方法4:口座を1つに絞る
預金口座を1つにすることで、無駄遣いを減らすことができます。
なぜなら、口座を複数持つことで、総貯金額が分からなくなり、ましてやそれを高く見積もるようになるからです。
たとえば、本当の総貯金額は50万円なのに、「60万円(+10万円)あるに違いない!」と勘違いしてしまったりします。
実験
学生を2つのグループに分けました。
- 3口座与えられたグループ
- 1口座与えられたグループ
(学生は実験の間、自分の口座を画面上で確認できる)
次に、彼らには課題が与えられ、それらの課題が全て終わったら100ドルもらえるのですが、その100ドルはどのように口座に振り分けていいものとする。
さらに、学生に各種の品目を並べられたリストを渡し、その中で何を買いたいかを想像させます。
※購入リストには、大学のロゴ入りTシャツ、写真アルバム、コンピューターのマウスなどがあります
最後に、実験者たちは、学生たちにこのように告げました。
「実験終了時に口座にお金が残っていたら、その金額で宝くじを買う予定で、もし当たったら賞金はその学生のものになります」
その時、どれくらいの学生たちが、口座にいくらのお金を残したか?を調べます。
1つの口座のグループは、3つの口座のグループと比べて、貯金額が6%も多くなることがわかりました。
なぜなら、口座が1つだとすぐに総貯金額・お金の出入りを確認しやすかったからです。
しかし、口座が3つになると、それらをすぐに確認することができないため、無駄遣いをしてしまう傾向が強くなるというわけです。
※それぞれの口座をしっかり管理している場合は問題ない
方法5:口座を分ける
目的に合わせて口座を分けましょう。
(何だか④と矛盾しているように思えますが、全く矛盾していません)
たとえば、「食費用の口座」「娯楽用の口座」「貯金用の口座」みたいな感じですね。
だから、遊びに行く時は「娯楽用の口座」を持って遊びに出かけ、しっかり残高を確認するようにしましょう。
すると、その中だけでやりくりするようになるので、無駄な消費を抑えることができるようになります。
方法6:アンカー(基準)に気を付ける
たとえば、10万円のところを7万円(30%オフ)などの表記されると得をした気分になってしまいませんか?
このように、最初の数字に引っ張られ、その後の意思決定に影響を与える現象をアンカリング効果といいます。
「7万円です!」と言われるよりも、「本来10万円のところが7万円となります!」と言われた方が、10万円という比較対象ができるので、安いと感じやすくなるのです。
だから、いかに安くなっていたとしても、実際の口座を見て購入決断するようにしてくださいね。
方法7:購入後に気を付ける
ある商品を購入した後は、気が緩んでいることが多く、さらに追加で商品を購入しやすくなります。
これを「テンション・リダクション効果」といいます。
たとえば、Amazonで商品を購入した後「この商品を購入した人は、こんな商品を一緒に購入しています!」とリコメンドされたりしますが、
これはテンション・リダクション効果を使った戦略になります。
なので、商品を購入したあとは一度落ち着くようにしましょう。
方法8:高い買い物をしている時は気を付ける
高い商品の中の少額のオプションに気を付けるようにしてください。
たとえば、500万円の車を購入しようとしているとします。
そして、店員さんは追加で10万円のカーナビもクロスセルしてこようとします。
きっと、多くの人はこれに同意してしまうでしょう。
なぜなら、このように扱う金額が大きくなると、損失・利得の感覚が麻痺してしまうからです。
この現象を「感応度逓減性」といいます。
まとめ:メンタルアカウンティング
では最後にまとめましょう。
本日は、
- メンタルアカウンティングとは
- メンタルアカウンティングの具体例
- 無駄な消費を減らす8つの方法
というテーマでブログを執筆しました。
我々は、物事を客観的にではなく、主観的に判断してしまうということですね。
だから、同じ金額でも、その扱い方が全く違ってきます。
これからは、メンタルアカウンティングに注意を向け、お金を扱う際は気を付けるようにしていきましょう。