アンダーマイニング効果とは、行動の内的動機付けが外的報酬によって弱まる心理効果のことです。
あなたは、自分たちの行動に対する動機付けが、外部からの報酬によって弱まるという現象について考えたことがありますか?これは「アンダーマイニング効果」と呼ばれ、心理学と行動経済学の領域でよく言及される現象です。
例えば、勉強が好きだけど、親から「勉強しなさい!」と強制されたことで、勉強へのやる気が一気に下がってしまった経験はありませんか?このように、外部からの報酬や強制が内発的な動機付けを弱めることがあります。
しかし、なぜこのような現象が起きるのでしょうか?本記事では、アンダーマイニング効果が発動する心理学的理由やそれを管理し営業教育に活かす方法などについて解説していきます。
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
アンダーマイニング効果とは
行動の内的動機付けが外的報酬によって弱まる心理効果
「アンダーマイニング効果(Undermining Effect)」は、心理学と行動経済学の領域でよく言及される現象で、行動の内的動機付けが外的報酬によって弱まる効果を指します。もともと興味や楽しさから行われていた行動が、外的な報酬(例えば金銭や称賛など)を得るための手段となると、それまでの内的動機付けが弱まるとされています。
この理論は1970年代に心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱されました。彼らは自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)の一部としてアンダーマイニング効果を説明しています。
アンダーマイニング効果が生じる原因の一つとして、報酬が行動への自発性を低下させるという考え方があります。つまり、自己の内発的な動機付けではなく、外的な報酬を得るために行動を行うようになると、その行動への興味や関心が減少するというものです。
この理論に基づくと、動機付けを高めようとする報酬制度が逆にモチベーションを低下させる可能性があるため、報酬の与え方や環境設定には注意が必要となります。例えば、教育や職場環境での動機付け戦略などにおいて、アンダーマイニング効果を理解し適切に対応することが重要となります。
2つの動機
ここで少し内発的動機と外発的動機を整理していくとともに、それぞれの事例について紹介していきます。
外発的動機
外発的動機付けは、個人が特定の行動を行う理由が外部の報酬や罰にある場合を指します。これは、金銭的な報酬、評価、認識、または罰や批判の避けることなどによって発生します。例えば、良い成績を得るために勉強する、昇進や賞を得るために仕事をする、罰を避けるためにルールを守るなどが外発的動機付けの例となります。
内発的動機
内発的動機付けは、個人が自身の興味、好奇心、楽しみなどから発生する動機付けのことを指します。内発的動機付けが強いとき、個人は何の報酬もなくても、または外部からの圧力や要求もなくても、特定の行動を喜んで行うことができます。学問への興味や趣味の追求などが内発的動機付けの例として挙げられます。
アンダーマイニング効果の具体例
ではここからは、アンダーマイニング効果の日常的な事例をいくつか紹介していきます。
- 学習と評価
- 趣味と仕事
- スポーツと報酬
事例1:学習と評価
子供が学習や読書を自分自身の楽しみや興味のために行っているとき、それが高評価や良い成績を得るための手段となると、その内発的な動機付けは減少する可能性があります。つまり、子供が学習をする目的が「評価されるため」に変わると、本来の学習への興味や好奇心が失われてしまう場合があります。
事例2:趣味と仕事
例えば、ある人が写真を撮るのが趣味で、それに対して高い内発的な動機付けを持っているとします。しかし、その人がプロのカメラマンになったとき、写真を撮る行為が「生計を立てるため」の手段となり、その結果、写真撮影への楽しみや興奮が薄れてしまう可能性があります。これはアンダーマイニング効果の一例と言えます。
事例3:スポーツと報酬
ある人がフットボールを楽しむためにプレイしているとします。しかし、その人がフットボールをプレイするために金銭的報酬を受け取るようになったとき、その行為が「報酬を得るため」になると、フットボールへの興味や情熱が減退する可能性があります。これもアンダーマイニング効果の典型的な例です。
アンダーマイニング効果の実験
1971年に行われた心理学者エドワード・L・デジとマーク・R・レッパーの実験を紹介します。
ここでの「ソマパズル」とは、立方体を作るためにさまざまな形状のピースを組み合わせるパズルのことです。
この実験は、1971年に心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンによって行われました。彼らはこの研究でアンダーマイニング効果の存在を示し、後に自己決定理論の一部としてこの現象を説明しました。
この実験の手続きは以下のようなものです。
この実験の結果、報酬を得たグループの参加者は、休憩時間中にソマパズルに費やす時間が非報酬グループの参加者に比べて大幅に減少していることが明らかになりました。これは報酬を受け取ることによって、ソマパズルへの内発的な動機付けが弱まった(つまりアンダーマイニング効果が生じた)と解釈されました。
この研究は、報酬が行動の内的動機付けを弱める可能性を示す重要な証拠となりました。
アンダーマイニング効果が発動する理由
アンダーマイニング効果が発生する心理学的なメカニズムについては、自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)が参考になります。この理論は、エドワード・デシとリチャード・ライアンによって1970年代に提唱され、アンダーマイニング効果の説明に用いられています。
自己決定理論によれば、人々は自己の行動を自由に選択し制御すること(自己決定性)、能力を発揮し達成感を得ること(能力感)、他者とのつながりを持つこと(関連性)の三つの基本的な心理的ニーズを満たすことを求めます。これらのニーズが満たされると、内発的動機付けが高まり、健康的な心理的発展と個々のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)が促進されます。
アンダーマイニング効果は、これらの基本的なニーズ、特に「自己決定性」の観点から説明することができます。外的報酬が介在すると、行動の自由な選択と制御が外部要因によって制約されると感じる可能性があります。つまり、自己決定性が低下します。これがアンダーマイニング効果の発生につながります。
具体的には、行動が報酬を得るための手段と見なされるようになると、その行動の本質的な価値や楽しさから離れ、報酬を得るための「仕事」や「課題」といったものになってしまうと感じるかもしれません。その結果、その行動に対する内発的動機付けが弱まる可能性があります。
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果は、報酬が行動への動機付けに与える影響を説明するための二つの重要な概念です。これらの概念は対照的な結果を示すため、一方を理解することは、もう一方を理解する上でも有用です。
まず、アンダーマイニング効果について再度説明します。これは、行動への内発的な動機付けが、その行動に対して外発的な報酬が提供されることにより弱まる現象を指します。つまり、個人が元々楽しみや興味から行っていた行動が、報酬を得るための手段となると、その行動自体への興味や楽しみが減退する可能性があります。
一方、エンハンシング効果(Enhancing Effect)は、報酬が行動への動機付けを強化する現象を指します。これは通常、行動への外発的な動機付けが強化される場合に観察されます。例えば、勉強に対して内発的な動機付けがあまりない人が、テストで良い成績を取るための報酬(成績、賞賛、賞など)を得ることで、勉強への動機付けが強化される場合があります。
これら二つの効果は、報酬が行動への動機付けに与える影響の二つの異なる側面を示しています。アンダーマイニング効果は、報酬が内発的な動機付けを弱める可能性を示しています。一方、エンハンシング効果は、報酬が特定の行動への動機付けを強化する可能性を示しています。どちらの効果が発生するかは、報酬の種類、提供の方法、そして個々の内発的な動機付けの度合いなど、多くの要因によって異なります。
アンダーマイニング効果と報酬の与え方
ではどういった場合に、アンダーマイニング効果を活用し、エンハンシング効果を活用すれば良いのかを下記の3つの観点から詳しく解説していきます。
- 個々の内発的な動機付けの度合
- 報酬の種類
- 報酬の提供方法
観点1:個々の内発的な動機付けの度合い
内発的な動機付けが高い場合、その行動に対する報酬がアンダーマイニング効果を引き起こす可能性があります。つまり、報酬が与えられると、その行動が楽しみや興味からではなく、報酬を得るための「仕事」に変わってしまい、内発的な動機付けが弱まる可能性があります。一方、内発的な動機付けが低い場合、報酬がエンハンシング効果を生み出す可能性があり、その行動への動機付けを強化することができます。
観点2:報酬の種類
報酬の種類も重要です。物質的な報酬(金銭、賞品など)は、特に内発的動機付けが高い行動に対してアンダーマイニング効果を引き起こす可能性があります。一方、非物質的な報酬(賞賛、認知など)は、特に報酬が能力の証明として捉えられる場合、エンハンシング効果を生み出しやすいとされています。
観点3:報酬の提供の方法
提供の方法もまた重要な要素です。例えば、報酬が予想外に提供される場合(つまり、行動と報酬の間に明確な関連性がない場合)は、アンダーマイニング効果を最小限に抑えることができます。また、報酬が個々の能力や努力を評価する形で提供される場合は、エンハンシング効果を引き起こしやすいです。逆に、報酬が明確な要求や期待と関連付けられている場合(つまり、報酬を得るためには「これをしなければならない」という条件がある場合)、アンダーマイニング効果を引き起こす可能性が高まります。
アンダーマイニング効果を営業教育に活用する方法
ではここからは、アンダーマイニング効果を理解して適切に管理することで、営業マンの教育に活用する方法をいくつか紹介します。
- エンハンシング効果を活用する
- 選択の機会を与える
- 能力感の強化
方法1:エンハンシング効果を活用する
エンハンシング効果とは、外発的動機づけによって内発的動機づけを高める方法です。信頼している上司や先輩からの褒め言葉や期待は、営業マンのモチベーションを高める効果があります。
方法2:選択の機会を与える
選択とは、自分で判断して決めることです。選択をすると、自己決定感や責任感が高まり、内発的動機づけが増加します。営業マンには、自分の仕事に対して主体的になることを促すことが必要です。たとえば、「今日の商談は、プレゼンターかフォローアップどっちをやりたい?」という感じで選択肢を与えます。すると、「今日はプレゼンターをやってみよう!」と強制するよりも、自己決定感が高まります。
方法3:能力感の強化
教育者は、営業マンが自分の能力を理解し、それを信頼して活用できるよう支援すべきです。これは具体的なフィードバックとトレーニングを通じて行うことができます。例えば、顧客との難しい交渉を成功させた営業マンに対して、具体的な行動とその結果を指摘して賞賛する。また、スキルを強化するための研修やワークショップを提供し、営業マンが自分の能力を継続的に開発できるようにする。
まとめ
アンダーマイニング効果とは|やる気を奪う意外な心理学【営業教育での活用方法も教えます】
アンダーマイニング効果は、行動の内的動機付けが外的報酬によって弱まる心理効果を指します。この効果は、報酬が行動の自由な選択と制御を制約すると感じると発生します。
報酬が与えられると、行動が楽しみや興味から報酬を得るための「仕事」に変わってしまい、内発的な動機付けが弱まる可能性があります。
しかし、この効果は報酬の種類や提供方法により異なり、適切に管理されれば、営業教育などに活用することが可能です。ぜひ今度はアンダーマイニング効果にも気をつけながら、教育をしていくようにしましょう。
アンダーマイニング効果とは|やる気を奪う意外な心理学【営業教育での活用方法も教えます】