例えば、親が子供の学習成果を賞賛したり、上司が従業員の業績を承認したりすると、その行動への動機付けが強化される可能性があります。
しかし、この効果を最大限に活用するためには、報酬の種類や提供方法、そして個々の内発的動機付けの度合いを理解することが重要です。では具体的にどのように報酬を与えると部下のやる気を最大化することができるようになるのでしょうか。
というわけで本日は、
エンハンシング効果とは|他者の“やる気”を高める心理学【営業教育での実践事例も紹介】
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
エンハンシング効果とは
報酬が内発的動機を強化するという心理効果のこと
エンハンシング効果とは、報酬が行動への動機付けを強化する現象を指します。これは通常、行動への外発的な動機付けが強化される場合に観察されます。例えば、勉強に対して内発的な動機付けがあまりない人が、テストで良い成績を取るための報酬(成績、賞賛、賞など)を得ることで、勉強への動機付けが強化される場合があります。
ちなみに、覚えやすいように解説しておくと、エンハンス(Enhance)には、”強化する”という意味があります。つまり、報酬によって内発的動機を強化するというところからその名が付けられました。
2つの動機
ここで少し内発的動機と外発的動機を整理していくとともに、それぞれの事例について紹介していきます。
外発的動機
外発的動機付けは、個人が特定の行動を行う理由が外部の報酬や罰にある場合を指します。これは、金銭的な報酬、評価、認識、または罰や批判の避けることなどによって発生します。例えば、良い成績を得るために勉強する、昇進や賞を得るために仕事をする、罰を避けるためにルールを守るなどが外発的動機付けの例となります。
内発的動機
内発的動機付けは、個人が自身の興味、好奇心、楽しみなどから発生する動機付けのことを指します。内発的動機付けが強いと
エンハンシング効果の具体例
ではここからは、エンハンシング効果の日常的な事例をいくつか紹介します。
- 学校の成績と親の賞賛
- 職場での業績と上司からの承認
- スポーツチームとコーチからの賞賛
事例1:学校の成績と親の賞賛
子供が学校で良い成績を取ったとき、親からの賞賛や承認は子供の学習への動機付けを強化することがあります。親が「よく頑張ったね」「素晴らしい成績だね」といった言葉で子供を褒めると、子供は自分の努力が認められていると感じ、さらに学習に励む動機を得ることができます。
事例2:職場での業績と上司からの承認
職場で良い業績を上げたとき、上司からの承認や賞賛は従業員の仕事への動機付けを強化することがあります。上司が「素晴らしい仕事をありがとう」「君の努力が会社の成功に大いに貢献している」といった言葉で従業員を褒めると、従業員は自分の努力が認められ、評価されていると感じ、さらに仕事に取り組む動機を得ることができます。
事例3:スポーツチームとコーチからの賞賛
スポーツチームで選手が良いパフォーマンスをしたとき、コーチからの賞賛は選手のスポーツへの動機付けを強化することがあります。コーチが「素晴らしいプレイだった」「君の努力がチームの勝利につながった」といった言葉で選手を褒めると、選手は自分の努力が認められ、評価されていると感じ、さらに練習に励む動機を得ることができます。
エンハンシング効果の実験
1925年にアメリカの発達心理学者のエリザベス・B・ハーロックは、賞罰(褒めること・叱ること)が児童の学習にどのような影響を与えるのかについて調べました。
被験者の小学生(9〜11歳)は全員同じ教室内で、算数のテストを5日間行うのですが、出す問題やテスト時間などの条件は一緒で、小学生を3つのグループに分け、前日の回答を渡す際に、それぞれ別々の言葉をかけました。
そして、それぞれのグループのテストの点数の変化を観察しました。
この実験により、褒めることは、学習効果を促進するということが分かりました。叱ることも、最初は学習効果を促進させるものの、持続性がないようですね。つまり、褒めるという外発的動機付けによって、成績を伸ばすというポジティブな結果につながったのです。
エンハンシング効果が発動する理由
エンハンシング効果は、報酬が行動への動機付けを強化する現象を指します。この効果は、心理学の一部門である行動主義の理論、特にオペラント条件付けの原理に基づいています。
オペラント条件付けは、B.F.スキナーによって提唱された学習理論で、行動がその結果(報酬または罰)によって強化または弱化されるという考え方です。報酬が行動に続くと、その行動が再度行われる可能性が高まるというのが基本的な原理です。
エンハンシング効果が発動する心理学的な理由は、以下の通りです。
これらの理由から、報酬が提供されると、内発的な動機付けが強化され、その結果、その行動が再度行われる可能性が高まるというエンハンシング効果が発動します。これはオペラント条件付けの原理と深く関連しています。
エンハンシング効果とアンダーマイニング効果
エンハンシング効果とアンダーマイニング効果は、報酬が行動への動機付けに与える影響に関する心理学的な概念ですが、その影響の方向性が逆です。
エンハンシング効果は、報酬が行動への動機付けを強化する現象を指します。つまり、報酬が提供されると、その行動を再度行う動機が強化されます。
例:ある学生が数学が苦手で、あまり興味を持っていないとします。しかし、テストで良い成績を取ると親から特別なご褒美(例えば、好きなゲームの新作)をもらえると知ったとき、その報酬のために一生懸命に勉強し、結果として数学のテストで良い成績を取ることができました。この場合、報酬(ゲームの新作)が学生の数学への動機付けを強化したと言えます。これがエンハンシング効果の例です。
一方、アンダーマイニング効果は、報酬が行動への動機付けを弱化する現象を指します。つまり、報酬が提供されると、その行動を再度行う動機が弱まる可能性があります。
例:ある子供が絵を描くことが大好きで、自由な時間があるときはいつも絵を描いています。しかし、ある日、親が「絵を描くたびにお小遣いをあげる」と言い始めました。当初、子供は喜んで絵を描きましたが、時間が経つにつれて絵を描くことが「お小遣いをもらうための仕事」に感じられるようになり、絵を描くこと自体の楽しみが失われてしまいました。この場合、報酬(お小遣い)が子供の絵を描くという行動への内発的な動機付けを弱化したと言えます。これがアンダーマイニング効果の例です。
これらの効果は、報酬の種類、提供の方法、そして個々の内発的な動機付けの度合いなど、多くの要因によって異なります。
エンハンシング効果を効果的に活用するポイント
ではここからは、エンハンシング効果を効果的に活用する上でのポイント、特にアンダーマイニング効果が発動しないように、報酬を与える方法について紹介していきます。
- 個々の内発的な動機付けの度合いを理解する
- 報酬の種類を考慮する
- 報酬の提供方法を工夫する
ポイント1:個々の内発的な動機付けの度合いを理解する
内発的な動機付けが高い場合、その行動に対する報酬がアンダーマイニング効果を引き起こす可能性があります。一方、内発的な動機付けが低い場合、報酬がエンハンシング効果を生み出す可能性があります。つまり、内発的動機が高い人に敢えて報酬を与えることはしない方が良いということです。もし与えるのであれば、次に紹介する非物質的報酬を与えると良いでしょう。
ポイント2:報酬の種類を考慮する
物質的な報酬(金銭、賞品など)は、特に内発的動機付けが高い行動に対してアンダーマイニング効果を引き起こす可能性があります。一方、非物質的な報酬(賞賛、認知など)は、特に報酬が能力の証明として捉えられる場合、エンハンシング効果を生み出しやすいとされています。
ポイント3:報酬の提供方法を工夫する
報酬が予想外に提供される場合(つまり、行動と報酬の間に明確な関連性がない場合)は、アンダーマイニング効果を最小限に抑えることができます。また、報酬が個々の能力や努力を評価する形で提供される場合は、エンハンシング効果を引き起こしやすいです。
エンハンシング効果と言語的報酬
ではここからは、言語的報酬(褒めること)を与える上でのポイントを解説していきます。結論から言えば、対象の能力(結果)を褒めるのではなく、行動(努力)を褒めるようにしましょう。
その根拠となる有名な実験を紹介します。スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエックは、思春期初期の子供たち数百人を対象にした実験を行いました。
まず、生徒全員に、非言語式知能検査というかなり難しい問題を10問解かせます。案の定、検査の結果は、ほとんどの生徒はまずまずの成果となりました。検査が終わった後、実験者は生徒に褒め言葉をかけるのですが、その際、生徒を2つのグループに分けます。
その後、さらに別の問題を選ばせるのですが、①の生徒は、新しい問題にチャレンジするのを避ける傾向にありました。なぜなら、新しい問題にチャレンジすることで、自分の無能さを露呈させる結果になる可能性があるからです。一方、②の生徒の9割はが新しい問題にチャレンジする方を選んだのです。
さらに、①の生徒は、問題が上手く解けたあとは楽しいと感じましたが、難問を出されたあとは、面白くないと答えるようになりました。一方、②の生徒は、難問を出されても嫌になったりせず、むしろ難しい問題の方が楽しいと答えるようになったのです。
最後に、①の生徒の能力がガクンと落ち、スタート時よりもさらに成績が落ちてしまいました。一方、②の生徒の出来はどんどん良くなったのです。
エンハンシング効果を営業教育に活用した事例
ではここからは、エンハンシング効果を営業教育に活用した事例を紹介します。上記例から能力よりも努力を褒めた方が良いということは理解できたかもしれませんが、そこをもう少し具体的に見ていきましょう。
- 努力を褒める
- 能力を褒める
努力を褒める
努力を褒めるとは、”その人が経てきた過程”を褒めるということです。言語的報酬を与える際は、こちらを参考にするようにしましょう。
「〇〇君がこのミーティングのためにどれだけの時間とエネルギーを投資したか、私は知っているよ。クライアントの業界について深く調査し、彼らのニーズに対する理解を深めるために時間をかけたんだよね。これからもそのような努力を続けていってほしい。」
能力を褒める
能力を褒めるとは、”結果を褒める”ということです。言語的報酬を与える際は、こちらはNGになります。
「クロージングを成功させたこと本当に素晴らしいね。〇〇君は、今回の商談で1,000万円近くの売り上げを会社にもたらした。これは本当に素晴らしいことだね。」
まとめ
エンハンシング効果とは|他者の“やる気”を高める心理学【営業教育での実践事例も紹介】
エンハンシング効果は、報酬が行動への動機付けを強化する現象を指します。これは、報酬が行動の価値を高め、その結果、その行動が再度行われる可能性を高めるからです。
しかし、これらの効果は、報酬の種類、提供の方法、そして個々の内発的動機付けの度合いなど、多くの要因によって異なります。特に、内発的動機付けが高い場合、その行動に対する報酬がアンダーマイニング効果を引き起こす可能性があります。
これを避けるためには、報酬の提供方法を工夫し、非物質的な報酬(賞賛、認知など)を提供することが推奨されます。もし、部下のやる気を高めたいと日々奮闘している方は、ぜひこの記事を繰り返し読み、実践していくようにしましょう。
あなたは部下のやる気を高めたいと感じたことはありませんか?