アンダーマイニング効果とは、内発的動機付けで行われていたことに、物質的・金銭的報酬などの外発的動機を与えると、やる気を失ってしまうという心理現象です。
たとえば、勉強は大好きだけど、親から「勉強しなさい!」と強制されたことで、勉強へのやる気が一気に下がってしまったなんて経験ありませんか?
このように、外部による動機付けは、やる気を低下させてしまうことが多々あります。
しかし、なぜこのような現象が起きてしまうのでしょうか?
というわけで本日は、
- アンダーマイニング効果とは
- アンダーマイニング効果の具体例
- アンダーマイニング効果はなぜ発動するのか
- アンダーマイニング効果と報酬の関係
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
アンダーマイニング効果とは

内発的動機付けで行われていたことに、物質的・金銭的報酬などの外発的動機を与えると、やる気を失ってしまうという心理現象
アンダーマイニング効果は、1971年に心理学者エドワード・L・デジとマーク・R・レッパーの実験により発見されました。
アンダーマイニング効果の具体例
では、いくつか具体例を見ていきましょう。
例1:絵を描く
ある男性は絵を書くことが大好きです。
しかし、それを商売として報酬をいただくようになると、趣味として絵を描かなくなってしまいます。
なぜなら、お金を支払われないと、絵を描く気になれないからです。
例2:ボランティア活動
ある男性はボランティア活動に従事しています。
誰かを助けた後の「ありがとう」という言葉に快楽を感じています。
しかし、ある日、ボランティアで助けた人からお金をもらうようになりました。
そして、それからというもの、お金をもらわなければ、積極的にボランティア活動をしなくなってしまうのです。
例:子供とアメ
マーカーペンで遊んでいる子供に、「絵を上手く描けたら、アメちゃんを上げるね!」と餌付けします。
そして、絵が描ける度に、子供にアメをあげました。
すると、子供はアメを貰わないと、能動的にマーカーペンで遊ばなくなってしまったのです。
しかし、「アメちゃんをあげるから絵を描いてごらん?」と言うと、絵を描きます。
外発的動機付け・内発的動機付け

では、ここからは「外発的動機付け」と「内発的動機付け」についてそれぞれ詳しく解説していきます。
外発的動機付け
外発的動機付けとは、外部から与えられる「受動的」な動機付けです。
- ボーナスアップのために、仕事を頑張る
- お母さんに怒られないために、勉強をする
- 尊敬している人に「本を読め!」と言われたので、本を読む
内発的動機付け
内発的動機付けとは、内部から自発的に沸き起こる「能動的」な動機付けです。
- 楽しいからゲームをやる!
- 興味関心があるから、心理学について調べる!
- 心が穏やかになるから、ボランティア活動をする!
アンダーマイニング効果の実験

1971年に行われた心理学者エドワード・L・デジとマーク・R・レッパーの実験を紹介します。
実験:エドワード・L・デジ、マーク・R・レッパー

手順1
被験者の大学生に、実験当初、流行っていたソマパズルを行わせます。
ソマパズル=立体のパズル(7種類の形をしたパズルを繋ぎ合わせ、飛行機や犬の形を作ることができます)
手順2
そして、被験者を2つのグループに分けて、それぞれに3つのセッションを行わせました。
普通にパズルを解いてもらう
Aグループ:パズルが解ける度に、1ドルを与えると告げる
Bグループ:何も伝えない
普通にパズルを解いてもらう
どのセッションでも、パズルが2問終了した時点で、実験者は8分間部屋を離れます
手順3
その際、被験者には「実験者がいない間、実験室にあるものに触れてもいい」と告げます。
そして、どれくらいの被験者が、どれくらいの時間ソマパズルに触れるか?ということを調べました。
実験の結果
Bグループの被験者がソマパズルに触れる時間に変化はありませんでしたが、Aグループの被験者ソマパズルに触れる時間が少なくなったのです。
このように、最初は内発的動機により行われていたところに、金銭的な外発的動機が与えられると、やる気が低下してしまうということが分かりますね。
つまり、ソマパズルが、金銭を得るための手段になってしまったのです。
アンダーマイニング効果はなぜ発動するのか

では、ここからはアンダーマイニング効果がなぜ発動してしまうのか?について解説していきます。
結論:自律性が失われるから
「自律性」とは、人の「選択したい!」という自由への欲求のことです。
コロンビア大学:シーナ・アイエンガー
コロンビア大学の教授シーナ・アイエンガーは、著書『選択の科学』にて、下記のようなことを言っています。
自律性と幸福感には相関関係がある
引用:選択の科学
つまり、「自分で選択したい!」という欲求が、外発的動機付けにより、失われてしまうというのです。
例:子供とアメ
最初、子供は、内発的動機付けによって、楽しく絵を描いていました。
しかし、そこにアメという報酬を与えることで、「アメを与える→絵を描く」というふうに条件付けされてしまいます。
つまり、報酬によって“絵を描く”という自律性が失われてしまうのです。
疑問:自律性を持ってもらうには
結論、選択権を与えましょう。
例:報酬の与え方
たとえば、多くの企業は、営業マンに対して予め決まった割合の成果報酬を金銭という形で与えます。
しかし、もしも営業マンの「自律性」を高めたいのであれば、成果報酬を下記のような形で選択させるといいでしょう。
- 金銭
- 休暇
- ギフト券
多くの営業マンは「金銭」を選択するでしょうがこれでOK。
なぜなら、自ら選択させることに意味があるからです。
実験:ダイアナ・コルドヴァ
心理学者ダイアナ・コルドヴァは、小学3年生〜高校生の子供を対象に実験を行いました。
手順1
コルドヴァは、生徒たちにSFをテーマにしたパソコン用の算数学習ゲームを与えました。
このゲームは、算数式を解く順番を学ぶためのものです。たとえば、「6+4×5=?」のような問題です。(4×5から解きますよね?)
手順2
そして、子供たちを2つのグループに分けます。
- 学習内容を何も選択できない
- 学習内容を選択できる(自分を表すアイコンを4つの中から選択可能、宇宙船に好きな名前を付けることが可能)
実験の結果
②の子供たちの方が、ゲームを楽しみ、休み時間にもプレーを続ける傾向がありました。
さらに、その後の算数のテストでも、成績を向上させることができました。
選択対象が学習内容とは、無関係であったにも関わらずですよ?
これは「選択をした!」という感覚を与えることで、自律性の欲求が満たされ、内発的動機づけが高まり、大きな成果を上げることが出来たからですね。
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果

ではここからは、アンダーマイニング効果と関連のあるエンハンシング効果について解説していきます。
エンハンシング効果
言語的な外発的動機付けにより、内発的動機付けが強化される心理現象
例:褒め言葉
たとえば、あなたは数学にテストで80点をとったとする。
そして、それを親に自慢したら、「80点なんてすごいね!」と褒められました。
すると、「よし!もっと勉強を頑張ろう!」と感じますよね?
アンダーマイニング効果との違い
- エンハンシング効果→やる気を高める
- アンダーマイニング効果→やる気を奪う
エンハンシング効果もアンダーマイニング効果も外発的動機付けと点では一緒です。
しかし、やる気を奪うのか?やる気を高めるのか?という点では大きな違いがあります。
エンハンシング効果>アンダーマイニング効果
実は、外発的動機付けよりも、内発的動機付けによる行動の方が、成果を上げる可能性が高くなる傾向があります。
例1:減量
たとえば、肥満の人の減量を取り上げた研究では、スタッフの人たちが「自律性」を尊重してくれていると感じた被験者の方が、
スタッフに管理されていると感じた被験者と比べて体重を多く減らし、定期的にエクササイズを行い、その後の追跡調査でも、体重を維持していることが分かりました。
例2:社会的成功
自らに選択権があり、人生は自分で切り開くものだと考える人ほど、モチベーションが高く、成功しやすいという研究もあります。
※研究を取り上げたら、キリがないくらいです
つまり、人は外発的動機付けにより、選択の自由が奪われていると感じると、成果を上げることが困難になるということですね。
アンダーマイニング効果と報酬の関係


ではここからは、報酬の大きさとパフォーマンスの関係について解説していきます。
結論:大きな報酬→パフォーマンスを下げる
2009年の研究では、被験者は、創造性・記憶力・運動スキルを測定するタスクに取り組ませました。
結果、大きな報酬を与えられると、成績が急激に落ちたのです。
なぜなら、大きな報酬のプレッシャーに負けてしまったからです。
例:賞金1,000万円
たとえば、優勝賞金100万円よりも、優勝賞金1000万円の方がプレッシャーがかかってしまい、思ったようなパフォーマンスを発揮することができないのと似ています。
つまり、報酬が大きいからといって、常にやる気が高まるわけではないということですね。
報酬を使い分ける!
しかし、大きな報酬が全て悪いのかというとそうではありません。
結論、「大きな報酬」と「小さな報酬」の使いわけが大切です。
実験:ウリ・ニズィー、アルド・ルスティキニ
被験者の高校生に、寄付を募るため民家を回らせます。
その際、高校生たちの報酬に違いをつけました。
- 大きな報酬:集めたお金の10%
- 小さな報酬:集めたお金の1%
- 報酬なし
そして、どのグループがどれくらいのお金を集めることができるか?を調べました。
実験の結果
- ③報酬なし
→平均239シュケル
↓ - ①大きな報酬
→平均219イスラエル・シュケル
↓ - ②小さな報酬
→平均154シュケル
この結果って面白いですよね?
なぜなら、報酬がゼロの学生が一番寄付を募ることができたのですから。
考察
しかし、なぜ報酬なしの学生たちは、大きな報酬の学生とほぼ同等のお金を集めることができたのでしょうか?
結論、「コミットメントと一貫性の原理」が働いたからです。
行動と一致した態度を取るという心理現象
大きな報酬だと「お金のために頑張る!(外発的動機)」という動機が生まれるので、必死にお金を集めたというのは普通ですよね?
しかし、たとえ報酬がゼロだったとしても、“ボランティア活動をする”という行動を取ることで、それと矛盾しない態度を取るようになります。
たとえば、「ボランティア活動によって、人々を救おう!」という感じで。
なので、パフォーマンスにそこまで差が生じなかったのです。
- 報酬ゼロ
↓ - 行動と一致した態度になる(コミットメントと一貫性の原理)
↓ - ボランティアによって人々を救おう!(内発的動機)
↓ - パフォーマンス⤴︎
アンダーマイニング効果と2つの報酬


ではここからは、アンダーマイニング効果をさらに深掘りして解説していこうと思います。
2つの報酬
報酬には大きく分けて2つ存在します。
- 金銭的報酬
- 社会的報酬
報酬1:金銭的報酬
お金による報酬(成果報酬など)
報酬2:社会的報酬
モノや言葉による報酬(プレゼントや褒め言葉など)
社会的報酬は、相手の「内発的動機」を強化します。
つまり、先ほど紹介したエンハンシング効果ですね。
金銭的報酬と社会的報酬を使い分け
では、これら2つの報酬は、どのように使い分ければいいのでしょうか?
- 長期的な関係を築きたい→社会的報酬
- 一度だけのお願い→金銭的報酬
長期的な関係を築きたい→社会的報酬
なぜなら、もしも「金銭的報酬」を与えてしまうと、「社会的関係」から「市場的関係」になってしまうからです。
例:引越しの手伝い
たとえば、あるふたりの友達に引越しの手伝いをしてもらったとする。
あなたはそのお礼に、彼らに別々の報酬を渡します。
- ワイン1本(社会的報酬)
- 5,000円(金銭的報酬)
そして、2週間後に、新しい家で水道管が破裂してしまいました。
さて、どちらの友達が、報酬無しで手伝ってくれる可能性が高いでしょうか?
結論、社会的報酬を受け取った友達でしょう。
考察
なぜなら、報酬がなかったとしても、社会的関係を維持しようとするからです。
一方で、金銭的報酬を受け取った友達は、また金銭的報酬を要求するようになる可能性が非常に高くなります。
なので、金銭的報酬を与えないと、手伝ってくれない可能性が高いわけですね。
一度だけのお願い→金銭的報酬
なぜなら、行動する動機を一瞬で強化できるからです。
例:引越しの手伝い
もしも、普段から人間関係が強化されておらず、また、すぐにでも手伝ってもらいたい場合は、金銭的報酬で解決するようにしましょう。
なぜなら、「報酬がもらえるのであれば!」という形で、簡単に動機を強化することができるからです。
なので、今後の深い付き合いを望んでいない人には、積極的に金銭を与えていきましょう。
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まとめ:アンダーマイニング効果
では最後にまとめましょう。
本日は、
- アンダーマイニング効果とは
- アンダーマイニング効果の具体例
- アンダーマイニング効果はなぜ発動するのか
- アンダーマイニング効果と報酬の関係
というテーマでブログを執筆しました。
相手のやる気をコントロールすることは、相手をコントロールすることにもつながります。
なので、アンダーマイニング効果を意識して、他者と関わるようにしていきましょう。
もしも、「内発的動機付け」による、やる気の高め方についても詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてもらえればと思います。