プラシーボ効果(placebo effect)とは、「思い込みの力」によって、人間の身体・精神に影響を与える心理現象のことです。
たとえば、「本当の薬」だと思い込ませて、「偽薬」を飲まされると痛みを感じなくなったりします。
他にも、「お酒」だと思い込んで「アルコール0の飲料」を飲むと酔っぱらってしまったり。
「思い込みの力」ってすごいですよね?
このように、我々は思い込むことにより、身体や精神が思わぬ影響を受けることがあります。
しかし、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
というわけで本日は、
- プラシーボ効果とは
- プラシーボ効果の具体例
- プラシーボ効果をマーケティングに活用する方法
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
プラシーボ効果とは
「思い込みの力」によって、人間の身体・精神に影響を与える心理現象
※プラシーボ=偽薬
※プラシーボ効果は、別名「偽薬効果」ともいわれています
プラシーボ効果の由来
科学的研究によって、プラシーボ効果が初めて認められたのは、
ハーバード・メディカル・スクールの麻酔学教授ヘンリー・ビーチャーが書いた論文『強力なプラシーボ(The Powerful Placebo)』がきっかけです。
米軍医時代のヘンリー・ビーチャー
彼が初めてプラシーボ効果を目にしたのは、1944年に米軍医として、南イタリアの沿岸地域に赴いた時のことでした。
ドイツ軍のもう攻撃により、負傷兵が続出し、治療に使うモルヒネが不足するという事態に陥ってしまいました。
そこで、何人かの負傷兵にモルヒネの代わりに生理食塩水を注射したのですが。。。
これが功を奏し、患者の痛みはすぐに和らぎ、そのおかげで致命的なショックを防ぐことができたのです。
プラシーボ効果の具体例
ではいくつか具体例をみていきましょう。
- 痛み止め薬
- 目覚めを良くする
- エナジードリンク
例1:痛み止めの薬
たとえば、抜歯をした患者さんたちに、偽薬を「これは痛み止めの薬です」とダマして飲ませると、「痛みが和らいだ」という患者さんが現れます。
例2:目覚めを良くする
朝起きた時に、「あ〜!よく寝た!!!」と発することで、目覚めが良くなったりもします。
例3:エナジードリンク
エナジードリンクを飲みむと、体力が回復したような気分になり、一気に仕事へのやる気が高まったなんて経験をしたことはありませんか?
プラシーボ効果の実験
- プラシーボで「うつ病」が改善
- プラシーボで「痛み」が減少
実験1:うつ病とプラシーボ
心理学者のアリア・クラムは、「ストレスを思い込みの力で、改善することができるのか?」ということを調べました。
実験の舞台は、2008年に世界的金融機関UBSでした。
金融機関のストレスはものすごくて、なんと就職した人の全員が10年以内に、不眠症やアルコール依存症やうつ病などの症状を最低1つは発症しているようです。
そこで、UBSの388名の従業員を対象に、彼らを3つのグループに分けました。
- ストレスに関するネガティブなオンライン講座
- ストレスに関するポジティブなオンライン講座
- オンライン講座の受講なし
そして、それぞれの被験者の変化を観察しました。
②では、⑴不安症やうつ病などの症状はあまりみられなくなり、⑵腰痛や不眠症などの健康問題も減っていたのです。
さらに!
⑶集中力や、仕事への取り組みや、周囲との協力や、仕事の生産性などにも向上が見られたということです。
このように、「ストレスって良いものなんだ!」といった思い込みをするだけで、精神面や健康面、仕事面などにポジティブな影響を与えるのです。
実験2:痛みとプラシーボ
トリノ大学医学部の神経科学者ファブリツィオ・ベネデッティは、外科手術を受けた患者を対象とした実験を行いました。
手術後の痛みを和らげるために、患者は病院に鎮痛剤を求めるのですが、
ベネデッティは、病院に対して「患者が鎮痛剤を求めたらその要求にしっかり応え、欲しいだけ鎮痛剤を与えてください」と指示しました。
(※ただし、鎮痛剤は本物とは限りません)
その際、下記のようないくつかのグループに分けて、患者への鎮痛剤の与え方に変化をつけました。
- 注射しているものが何であるかは一切告げないグループ
- 「強力な鎮痛剤」と告げたうえで、生理食塩水を注射するグループ
- 「強力な鎮痛剤かもしれないし、生理食塩水かもしれない」と告げた上で生理食塩水を注射するグループ
そして、患者の痛みの和らぎ具合を調べました。
③の被験者は①の被験者よりも、その後に要求した鎮痛剤の量が20%少なかったのです。
さらに、②の被験者は①よりも、その後に要求した鎮痛剤が2/3以下にまで減少しました。
この実験を見ても分かる通り、プラシーボの影響は強力だと言えますね。
ノーシーボ効果とは
有害なプラシーボ効果のこと
ノーシーボ効果の具体例
では、いくつか具体例をみていきましょう。
- あるはずの無い副作用
- 死刑囚を傷つけずに殺す
例1:あるはずの無い副作用
たとえば、患者に「この薬は、めまいを誘発します」とそのような副作用の無い偽薬を渡すと、患者は本当にめまいを起こしたりします。
例2:死刑囚を傷つけずに殺す
死刑囚を、目隠しをした状態でイスに括り付けます。
そして、手足を傷つけるフリをし、体調出血していると思い込ませることで、死刑囚が命を落とすといった事例もありました。
※本当は、ただ手足をなぞって、水を垂らしているだけ
実験:イタリア
あるイタリアの医師が、前立腺肥大の男性を対象とした実験を行いました。
まず患者を2つのグループに分けます。
- 特に何も言わずに、処方薬を投与する
- 投与の前に、勃起障害、制欲減退、射精障害など、処方する薬に起こり得る副作用について長い時間をかけて説明する
そして、薬を投与されてから3ヶ月後のそれぞれの被験者の状態を観察しました。
②の患者の方が、副作用の報告が圧倒的に多かったのです。言う
①の患者と比べると、3倍近い数だったことには驚きを隠せません。
倫理的には、薬の副作用を伝えるべきではありますが、だからと言って、それを単に伝えれば良いということでもなさそうですよね。
なぜなら、伝え方に配慮が無いと、患者に不要な苦しみを与えてしまう恐れもあるわけですから。
なぜプラシーボ効果が発動するのか
でも、なぜプラシーボ効果なんていう面白い現象が発動するの??
結論:神経伝達物質
プラシーボによって、神経伝達物質やホルモンが分泌されるからです。
たとえば、偽薬を本物の薬だと思って服用した場合、「症状が緩和されるに違いない!」という期待が高まります。
つまり、報酬への期待が高まるわけです。
例:ドーパミンの分泌
やる気を高める脳内ホルモン(神経伝達物質)
すると、脳内にドーパミン(神経伝達物質)が分泌されるのですが、
これが知的な思考を担当する部分である前頭皮質に到達すると、その期待はより明確なものになります。
「心配いらない!もうすぐ痛みは和らぐ!」というような、はっきりとして思考となって現れるのです。
そして次に、その期待を現実のものとするような神経伝達物質・ホルモンが放出されます。
- プラシーボ
↓ - 思い込む
↓ - 神経伝達物質が分泌
↓ - 身体・精神に変化が起きる
プラシーボ効果を受けやすい人・受けにくい人
でも、どのような人は、プラシーボ効果の影響を受けやすいの??
結論:報酬系の働き
2007年ミシガン大学の研究によると、プラシーボ効果の影響を受けやすい人は、
金銭的報酬を予期した時に、脳内の報酬系の働きが活発になる人ということが分かりました。
つまり、「お金がもらえるかも!」と予期した時に、ドーパミンが多く分泌される人ほど、偽薬による鎮痛効果が起こりやすいということです。
ドーパミンの分泌量=欲求の強さ
「早く症状を緩和させたい!」という欲求が強い人ほど、偽薬による鎮痛効果を受けやすくなります。
なぜなら、そのような状態ではドーパミンが大量に分泌されているからです。
つまり、痛みに対する恐怖心が強く、痛みを辛いと感じる人ほど、偽薬による鎮痛効果を受けやすくなるということですね。
プラシーボ効果をマーケティングに活用する方法
- ベネフィットを意識する
- コピーを意識する
- ビジュアルを意識する
- 具体例を強化する
- 商品を高額にする
方法1:ベネフィットを意識する
商品・サービスを購入した後の恩恵のこと
販売では、ベネフィット(商品購入後の恩恵)を意識しましょう。
なぜなら、「私にもできる!」と思い込ませることができるからです。
興奮体感理論
行動後の興奮状態をイメージすることで、行動するという理論のこと
たとえば、梅干しを食べているところを想像すると、よだれが出てきませんか?
これは想像することによって、身体が反応している証拠です。
このように、購入後の未来をアリアリと想像させることで、実際にその状態を体感させることができるようになります。
なので、商品・サービスのベネフィットは必ず意識するようにしましょう。
補足:メリット・ベネフィットの違い
たとえば、パナソニックから出ている「レッツノート」のメリットとベネフィットは下記のような感じです。
- メリット:軽くて耐久性がある
↓ - ベネフィット:壊れてデータが飛ぶことがなくなる
このように、ベネフィットとは、メリットによって得られる「顧客の恩恵」と言えるでしょう。
だから、あなたの想定する顧客のベネフィットを特定して、それに刺したライティングなどをすることで、
「自分ゴト」だと感じさせることができ、「できる!」と思い込ませることができるようになります。
方法2:コピーを意識する
消費者の期待感が高まるコピーを使うようにしましょう。
例:漂白剤
たとえば、花王が出している『アタック』という漂白剤のキャッチコピーはこちらです。
スプーン一杯で驚きの白さに洗い上げる洗剤
どうですか?このコピーを見ただけで、期待感が高まりませんか?
仮に、他の洗剤よりもちょっと漂白力があるだけでも、それを使った消費者は「やっぱり他社商品と違う気がする!」と錯覚するようになります。
もちろん、誇大広告などは意識しなければなりませんが、それに触れないように消費者に期待感を持たせるコピーを作るようにしましょう。
方法3:ビジュアルを意識する
消費者の期待感が高まる画像・動画を使うようにしましょう。
例:レッドブル
たとえば、オーストリアのレッドブル社が販売するエナジードリンク『レッドブル』のキャッチコピーはこちらです。
レッドブル、翼を授ける
そして、レッドブルは、このキャッチコピーに沿ったテレビCMを打ち出しています。
どうですか?大袈裟なCMではありますが、ちょっと飲んでみたくなりますよね?
このように、レッドブル社は、「レッドブルを飲んだ後、翼が生えて〜」という型のCMをいくつも打ち出すことで、消費者の期待感を上げることに成功しました。
結果、今では「エナジードリンクと言えばレッドブル!」となるまでに成長を遂げました。
(※もちろん、これは画像においても全く一緒です)
方法4:「たとえ話」を強化する
販売では、「たとえ話」を効果的に使うことで、想像を膨らませるようにしましょう。
なぜなら、「私にもできる!」という欲求が高まるからです。
例:返報性の原理
たとえば、「返報性の原理」を例として、「具体例」の重要性をお伝えします。
貰い物をしたら、お返しをしなければならないと感じる心理現象
もちろん、返報性の原理レベルだったら上記のような説明でも問題はありませんが、知らない人からすると「なんのこっちゃ?」って感じかもしれません。
そこで、「たとえ話」を用いるわけです。
バレンタインデーにチョコレートをもらったら、ホワイトデーにそのお返しをしなければならないと感じますよね?
この感覚が返報性の原理です。
どうですか?分かりやすいですよね?
このように、「たとえ話」を用いて説明することで、読者に期待させることができるようになります。
- たとえ話
↓ - 想像しやすくなる
↓ - 期待が高まる
↓ - 購入
方法5:商品を高額にする
我々は、「高額なモノ=質が高い」という直感が働きます。
行動経済学ではこれを「価格-品質ヒューリスティック」、心理学ではこれを「ヴェブレン効果」といいます。
NG:高額→売れない
「高級なモノほど、質が良い!」と感じてしまいませんか?
これはプラシーボ効果による単なる思い込みなのですが
もしかしたら、「高額にすると、売れなくなる…」と感じ、商品・サービスを安く販売している人も多いと思うのですが、
逆に、高額にすることで需要を伸ばす結果にもなりますので、「高額=売れない」という方程式は、一概に正しいとは言えません。
実験:フレデリック・ブロシェ
2001年ボルドー大学ワイン研究者であるフレデリック・ブロシェが、フランス人ソムリエを対象にした実験を行いました。
実験では、さほど高くもない安くもない中程度のボルドーワインを使ったのですが、
本来とは違う2種類のボトルに入れて、被験者のソムリエに鑑定してもらいました。
- グラン・クリュという高価なワインのボトル
- 安価なテーブルワインのボトル
結果、ソムリエたちは、①で注がれたワインを圧倒的に高く評価し、「素晴らしい!バランスが取れていて香りも良い!」などと褒めちぎりました。
反対に、テーブルワインのボトルから注がれたものに関しては、「コクガないし、バランスも悪い。
味が平板で飲んでもあまり印象に残らない」と酷評しました。
このように、中身が同じであるにも関わらず、ボトルを変えただけで味覚に変化が起きてしまうのです。
マーケティングで使える心理学
まとめ:プラシーボ効果
では、最後にまとめましょう。
本日は、
- プラシーボ効果とは
- プラシーボ効果の具体例
- プラシーボ効果をマーケティングに活用する方法
というテーマでブログを執筆しました。
プラシーボ効果は、一見すると、ものすごく胡散臭い心理効果です。
しかし、プラシーボ効果は、様々な研究でも実証されている通り、ものすごく強力な心理テクニックと言えます。
なので、ぜひ仕事、交友、恋愛、様々な場面で使っていくようにしましょう。