ピーク・エンドの法則とは、あらゆる経験の快楽・苦痛は、「絶頂時」と「終了時」の快楽・苦痛の度合いで決まるという法則です。
たとえば、テーマパークでは、ひとつのアトラクションを楽しむために、長時間並ぶという苦痛に耐えなければなりません。しかし、アトラクションを楽しんだは「楽しかった!」と感じ、長時間並んでいた時の苦痛はどこかに消えていませんか。
このように、我々の脳は、ある経験を絶頂時と終了時で決める傾向があります。しかし、なぜこのような現象が起こるのでしょうか。本記事では、ピークエンドの法則が働く心理学的理由、そしてそれを営業やマーケティングに活用する方法を紹介していきます。
というわけで、本日は
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
ピークエンドの法則とは
あらゆる経験の快楽・苦痛は、「絶頂時」と「終了時」の快楽・苦痛の度合いで決まるという法則
ピークエンドの法則(Peak-End Rule)は、人々が経験やイベントをどのように記憶し、評価するかを説明する心理学の原理です。この法則によると、人々は経験全体を均一に評価するのではなく、主に二つのポイントに焦点を当てて評価します。それらは、「ピーク」(経験中で最も強い感情を引き起こした瞬間)と「エンド」(経験の終わり近くの感情)です。
ピークエンドの法則は、1993年に心理学者ダニエル・カーネマンによって提案され、彼の研究に基づいています。彼の研究は、人々が経験に基づいて意思決定を行う際に、どのように記憶と感情が影響を与えるかを調査しました。
この法則の意義は、人々がイベントや経験を評価する際に、全体的な期間や一貫性よりもピークとエンドの瞬間に大きな重みを置く傾向があることです。これは、マーケティングやサービス業、政策立案など様々な分野での意思決定に影響を与え、顧客満足度や選挙結果などの重要な要素を形成することがあります。
要するに、ピークエンドの法則は、人々が経験を評価する際に、特に印象的な瞬間と経験の終わりの感情に重点を置くことを示しています。これにより、様々な分野でより効果的な意思決定が可能になります。
ピークエンドの法則の具体例
では、いくつか具体例を紹介しましょう。
- レストランの経験
- 旅行の思い出
- 映画や演劇の鑑賞経験
事例1:レストランの経験
あるレストランでの食事が全体的には平均的だったとしても、デザートが特に美味しく、サービスが終わり近くに素晴らしいものであれば、そのレストランに対する印象は良好になります。ピーク(美味しいデザート)とエンド(素晴らしいサービス)が全体的な評価に大きく影響している例です。
事例2:旅行の思い出
旅行中に起こった様々な出来事の中で、特に印象的なアクティビティや経験(ピーク)と、最後の日に楽しんだ素晴らしい夕食や感動的なサンセット(エンド)が、旅行全体の評価を左右します。旅行中の他の平凡な出来事は記憶から薄れる傾向があります。
事例3:映画や演劇の鑑賞経験
映画や演劇の鑑賞中、特定のシーンや瞬間が強烈な感情を引き起こす(ピーク)ことがあります。また、物語の結末や最後のシーンが印象に残ることがよくあります(エンド)。これらのピークとエンドの瞬間が、観客が作品全体に対して持つ評価や感想に大きく影響します。
ピークエンドの法則の実験
ピークエンドの法則の有名な実験は、ダニエル・カーネマンとバーバラ・フレデリクソンによって行われた「コールド・ハンド実験」です。この実験は、感じた痛みを評価する際にピークエンドの法則がどのように働くかを明らかにするために行われました。
まず、被験者は2つの異なる条件で痛みを感じる経験をします。
実験後、被験者は2つの条件のどちらが好ましいかを選ぶように求められます。
実験の結果、驚くことに多くの被験者が第二の条件(75秒間手を冷たい水に浸ける)を好むと答えました。これは、第二の条件の最後の15秒間で水温がわずかに上がったため、経験の「エンド」が比較的快適だったと感じられたからです。この結果は、ピークエンドの法則が痛みの評価にも影響を与えることを示しています。
この実験から、ピーク(最も痛みを感じる瞬間)とエンド(経験の終わりの痛み)が、被験者が全体的な痛みの経験を評価する際に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。経験全体の期間や総量にもかかわらず、ピークとエンドの感覚が評価に大きな影響を与えているのです。
2つの自己:ピーク・エンドの法則
ピークエンドの法則を提唱したダニエル・カーネマンは、人々が経験や感情を評価する際に、「2つの自己」が働いていると説明しています。それがこちら。
- 「経験する自己」(Experiencing Self)
- 「記憶する自己」(Remembering Self)
経験する自己
経験する自己は、現在の瞬間に生きており、感情や感覚をリアルタイムで経験しています。この自己は、その場の感情や快楽、苦痛などを感じる役割を持っています。しかし、経験する自己は、過去の出来事や未来の予測には直接関与していません。
記憶する自己
記憶する自己は、過去の経験を評価し、意思決定や未来の計画に影響を与える役割を持っています。ピークエンドの法則は、主にこの記憶する自己に関連しています。なぜなら、この自己が過去の経験の「ピーク」(最も強い感情を引き起こした瞬間)と「エンド」(経験の終わり近くの感情)に焦点を当てて評価を行うためです。
事例:バケーション
たとえば、あなたが素晴らしいバケーションを楽しんでいるとき、「経験する自己」はその場での感情や体験を感じています。しかし、帰宅後、記憶する自己がバケーションを評価する際には、ピークエンドの法則が適用され、特に印象的だった瞬間や経験の終わりの感情が評価に大きく影響します。
なぜピークエンドの法則が発動するのか
ピークエンドの法則が発動する心理学的理由は、人間の記憶と情報処理の仕組みに関連しています。人間の脳は情報を効率的に処理し、記憶する必要がありますが、すべての情報を完全に記憶することは困難です。
そのため、脳は特定の情報を優先して記憶し、他の情報を簡略化または無視することで、情報処理の効率を向上させます。ピークエンドの法則は、この情報処理の効率化が経験の評価にどのように影響するかを示しています。
具体的な事例で説明すると、例えばあなたが友人と一緒に遊園地に行ったとしましょう。
- 極端な感情(ピーク): 遊園地での経験の中で、スリリングなジェットコースターに乗った瞬間や、友人と楽しく笑いあった時など、特に印象的な瞬間があります。これらの瞬間は、感情が極端であり、記憶に強く残りやすいため、評価に大きな影響を与えます。
- 最後の感情(エンド): 遊園地を出る直前に美味しいアイスクリームを食べたり、素晴らしい花火ショーを見たりすると、その経験の終わりに強烈な感情が残ります。人間の脳は「新近効果」と呼ばれる現象により、最近の情報や経験をより強く記憶し、評価に反映させる傾向があります。
これらの要因により、ピークエンドの法則が発動します。つまり、遊園地での全体的な経験を評価する際、特に印象的な瞬間(ピーク)と経験の終わりの感情(エンド)が重要視されます。他の瞬間や経験は、それほど強く記憶されず、評価にはあまり影響を与えません。
ピークエンドの法則を営業に活用する方法
では、ここからは、ピークエンドの法則を営業に活用する方法をいくつか紹介していきます。
- 印象的なプレゼンテーション
- 最後の印象
- サプライズ要素の提供
方法1:印象的なプレゼンテーション
営業プレゼンテーションで、顧客に強い印象を与える瞬間(ピーク)を作ることが重要です。例えば、プレゼンテーションの途中で、顧客が驚くような事実や、実際に商品やサービスの効果を体験できるデモンストレーションを行うことで、記憶に残る印象を与えることができます。
方法2:最後の印象
顧客とのやり取りを終える際に、良い最後の印象(エンド)を残すことが大切です。例えば、顧客に対して感謝の言葉を述べたり、アフターフォローの約束を明確に伝えたりすることで、顧客に安心感や信頼感を与えることができます。
方法3:サプライズの提供
営業活動の中で、顧客にサプライズを提供することで、印象的な経験を作り出すことができます。例えば、プロモーション期間中に無料のアップグレードや特典を提供することで、顧客に喜びや驚きを感じさせ、記憶に残る経験を提供することができます。
ピークエンドの法則をマーケティングに活用する方法
では、ここからは、ピークエンドの法則をマーケティングに活用する方法をいくつか紹介していきます。
- ストーリーテリング
- 顧客体験の最適化
- プロモーションの工夫
方法1:ストーリーテリング
ストーリーテリングを用いた広告戦略により、顧客の記憶に残るピークエンドを作り出すことができます。
最近では、ストーリーを使った広告がYouTubeなどで多く流れています。たとえば、ある脱毛系の広告では、「毛深くて全くモテなかった男性が、脱毛をしたことでめちゃくちゃモテるようになった!」なんていうサクセスストーリーが使われています。これを視聴したユーザーは、「私も脱毛すれば人生が変わるかもしれない!」と感じるようになります。これは、ピークエンドの法則を効果的に活用した販売戦略と言えます。
方法2:顧客体験の最適化
顧客が製品やサービスを利用する際の体験を最適化することで、顧客の満足度を向上させることができます。
例えば、オンラインショッピングサイトでの購入プロセスを簡潔かつスムーズにすることで、顧客に快適なエンドを提供できます。購入プロセスが複雑性は、顧客にネガティブなピーク or エンドを提供することに繋がりますので、顧客体験の改善は早急に行うようにしましょう。
方法3:プロモーションの工夫
プロモーション活動に工夫を凝らすことで、顧客に印象的な経験を提供することができます。
例えば、限定商品の発売や特別な割引を提供することで、顧客にサプライズや興奮を感じさせるピークを作り出すことができます。私の販売する営業心理学講座でいえば、「27,800円が今だけ1,800円に!」というのがまさにそれです。
まとめ
ピーク・エンドの法則とは|顧客の印象を支配する販売心理学
我々の過去の経験への評価は、ピーク時とエンド時に決まるということを理解していただけたでしょうか。
これは、営業やマーケティングではもちろん、日常生活においてもものすごく大切な心理法則になりますので、ぜひ今後の生活でも意識するようにしてみてください。
ピーク・エンドの法則とは|顧客の印象を支配する販売心理学