ローボール・テクニックとは、最初に好条件の要求を承諾させ、後から好条件を引いたり、悪い条件を足したりする心理テクニックのことです。
たとえば、「50%セールス中!」という広告をみて洋服店に入ったものの、
その対象は一部の商品のみで、「まぁせっかく来たし〜」ということで、商品を購入してしまったことなんて経験はありませんか?
このように、われわれは、最初に好条件の要求を呑んでしまうと、後に引けなくなってしまうのです。
しかし、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
というわけで本日は
- ローボール・テクニックとは
- ローボール・テクニックの具体例
- ローボール・テクニックとフット・インザ・ドア
- ローボール・テクニックの考え方
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
ローボール・テクニックとは

最初に好条件の要求を承諾させ、後から好条件を引いたり、悪い条件を足したりする心理テクニック
ローボール・テクニックは、「特典除去法」「承諾先取り法」なんて言い方もされています。
ローボール・テクニックの由来
ローボールとは、「低い球」を意味するのですが、
捕球しにくい「高い球」でも、先に捕球しやすい「低い球」を取らせることで、捕球しやすくなるというところから来ています。
※「倫理的にどうなの?」という側面があったりするのですが、絶対に人を騙す目的で使わないでくださいね
ローボール・テクニックの具体例
ではいくつか具体例をみていきましょう。
例1:セール中の広告
洋服店には至る所に「30%セール中!」なんて広告が掲載されまくっていますが、それを見た人たちはついついお店に入ってしまいます。
しかし、店内を見渡すと30%セール中の商品はごく一部だけ。
「なぁ〜んだ」と思いながらも、お店の中を探索していると、ある「可愛いスカート」と出会います。
そして、だんだんとそれが欲しくなり、「セール中以外の商品」を購入するつもりはなかったけど、「せっかく来たことだし、買うか!」と決断してしまうのです。
例2:デートに漕ぎ着ける
あなたには、好きな女性がいます。
彼女とどうしても一度デートがしたいと思った時は、まずは「あなた」と「好きな子」の「共通の知人」との三人で遊ぶ約束を取り付けましょう。
そして、約束当日の1時間前くらいに「〇〇(共通の知人)がダメになっちゃったらしいんだよね〜。だから今日は2人で遊ぼう!」と要求するのです。
すると、女性も断りずらく、「まぁせっかくだしいっか〜」とデートへの承諾率を高めることができます。
このように、ローボール・テクニックを使うことで、最初は「三人で遊ぶ予定」だったものが「デートの予定」に変えることができるということですね。
例3:上司の汚い要求
部下に対して、詳細を伝えずに「ちょっと手伝ってくれないか?」と要求をします。
部下も上司の言うことを断るわけにもいかないので、反射的に「はい」と言ってしまいます。
すると、思ってもみなかった量の仕事を頼まれます。
しかし、「はい」と言ってしまった手前、いまさら断ることもできず、上司の要求を承諾してしまうのです。
ローボール・テクニックの実験

では、ローボール・テクニックの実験を紹介します。
実験:ロバート・チャルディーニ
社会心理学者のロバート・チャルディーニ氏は、
オハイオ州立大学で、心理学入門講座を受講している学生に、嫌な活動への参加を取り付けるといった実験を行います。
(嫌な活動=早起きして、朝7時から始まる「思考過程に関する」研究に加わる)
手順
まずは、被験者を2つのグループに分けます。
- 上記の内容をそのまま伝える
- 思考過程に関する研究に参加したいかどうかを伝え、それに承諾してから、「朝7時から始まる」ことを伝える
そして、それぞれの被験者の承諾率を調べました。
実験の結果
- 上記の内容をそのまま伝える
→承諾率24% - 思考過程に関する研究に参加したいかどうかを伝え、それに承諾してから、「朝7時から始まる」ことを伝える
→承諾率56%
なんと、ローボール・テクニックを使うことで、承諾率に2倍以上の大差を付けたのです。
さらに驚くべきことに、ローボール・テクニックによって参加表明した学生の95%が、約束通り朝7時に実験に参加したのです。
ローボール・テクニックと関連した心理学

- コミットメントと一貫性の原理
- 認知的不協和
- サンクコスト効果
心理学1:コミットメントと一貫性の原理
約束を貫き通そうとする心理現象
例:目標の売上を伝える
「今月は絶対に売上100万円を達成します!」と営業マン全員の前で約束すると、「なんとしてでも、目標を達成しよう!」という感情を抱きますよね?
さらに、もしも達成できなかった時は「ヤバイ、めちゃめちゃ気まずい…」という感情を抱くでしょう。
このように、大勢の前で自分の目標を伝えることを「パブリックコミットメント」といいます。
心理学2:認知的不協和
矛盾する2つの認知を同時に抱えていて、不快な状態のこと
このストレスを抱えている状態から解放されようとすることを認知的不協和の解消といいます
例:タバコ
喫煙している人たちが、“喫煙が身体に及ぼす影響”についてのテレビ番組を見た場合、下記の2つの認知を抱えることになります。
- タバコを吸っている
- タバコは身体に悪い
これら2つの認知って矛盾していますよね?
ゆえに、認知的不協和の状態となります。
そして、無意識レベルでこの矛盾から開放されようとします。(認知的不協和の解消)
↓
喫煙し続ける人たちは、『タバコは身体に悪い』という認知を否定しようとします。
たとえば、「タバコを吸っていても、長生きしている人もいるし〜」という感じですね。
つまり、行動を変えようとしません。
一方、禁煙できる人たちは、『タバコを吸っている』という認知を否定します。
たとえば、「タバコなんて1の利益もないじゃないか!」という感じですね。
だから、行動を変えようとします。
心理学3:サンクコスト効果
特定の対象にコスト(お金・時間・労力など)をかけると、それに不当に価値付けをしてしまうという心理現象
例:男女の恋愛感
男性が女性と別れた後に引きずってしまうのは、これまでのデート代や女性を思いやってきた時間など、多くのコストをかけてきたからです。
だから、よく男女の恋愛感の違いを説明する時、下記のような表現をしますよね?
- 男性=別フォルダを作る
- 女性=上書き保存
これは、男性が女性にかけてきたコストが大きいから起こることなのです。
しかし、女性はコストをかけられている側なので、恋愛を引きずることはほとんどありません。
ローボール・テクニックとフット・インザ・ドア


ではここからは、ローボール・テクニックと勘違いされやすい、フット・インザ・ドアについて解説していこうと思います。
フット・インザ・ドアとは
小さな承諾を積み重ねることで、本命の要求を承諾させやすくするテクニック
例:高価な貢物をさせる
たとえば、男性に高価な貢物をさせたいのであれば、最初はあえて小さな貢物からさせましょう。
- 食事代
↓ - 映画
↓ - ディナー
↓ - 高級なバック(ゴール)
このように、最初は小さかった貢物も、小さな要求によって「大きな貢物」へと変化を遂げていきます。
ローボール・テクニックとの違い
ローボール・テクニックとフット・インザ・ドアの決定的な違いは、条件の「足し算・引き算」がないところですね。
フット・インザ・ドアは、最終的に承諾してもらいたい要求に向かって、コツコツと小さな承諾をもらうというテクニックですが、
ローボール・テクニックでは、最初に好条件の承諾させた後に、悪条件を足したり、好条件を引いたりします。
なので、お互い「コミットメントと一貫性の原理」を利用しているところは同じですが、似て非なるテクニックと言えるでしょう。
動画にしました
ローボール・テクニックの対処法


ではここからは、他者からローボール・テクニックを使われた時の対処法について解説していきます。
特に、詐欺師などはこのテクニックを利用することが多いので、ここでしっかり対策しておきましょう。
- 「申し訳ない…」という感情を捨てる
- 「もったいない…」という感情を捨てる
- ハッキリ断る
対処法1:「申し訳ない…」という感情を捨てる
このような感情を捨てるのは難しいと思うでしょう。
というのも、人間には「承認欲求」という「嫌われたくない…」という欲求を持っているからです。
だから、詐欺師や営業マンの要求を断れなくなってしまいます。
しかし、ちょっと考えてもらいたいのですが、そもそも後から条件を変更していること事態がよくないことですよね?
Aという条件は呑んだけど、Aに条件を足したり引いたりした全く別のBという条件には同意していないわけですよ。
だから、「悪いなぁ…」と思う必要がないんですよね。
気が弱い人、承認欲求が強い人は、要注意です。
対処法2:「もったいない…」という感情を捨てる
たとえば、営業マンにかなりの時間と労力を投下してきたとする。
すると、反射的に「もう購入しちゃうか!」と感じ、商品・サービスを購入してしまう傾向が高まります。
前述したサンクコスト効果による現象
このような反射的な買い物は、後悔を生むことがほとんどです。
だから、相手がローボール・テクニックを使ってきて別の条件に変化したら、「いったん家に持ち帰る」というルールを設けるようにしましょう。
いったん家に帰った方が冷戦な判断ができますし、周りの友達に相談することもできます。
もしも、それでもこちらが損をしない条件であれば、その要求を呑む形にしましょう。
対処法3:ハッキリ断る
条件が変わった瞬間にハッキリ断るのもアリです。
なぜなら、そもそもローボール・テクニックを戦略として組み込んでいる会社に良い会社はないからです。
考えてもらえば分かるのですが、そのままの形で提示しても売れないから、わざわざ最初は好条件で提示するようにしているんですよね?
小賢しいテクニックを使って売ろうとする商品にろくなものはないので、相手がローボール・テクニックを使っていることが分かった瞬間にキッパリ断ることをオススメします。
▼おすすめ図書:心理学▼
まとめ:ローボール・テクニック
では最後にまとめましょう。
本日は、
- ローボール・テクニックとは
- ローボール・テクニックの具体例
- ローボール・テクニックとフット・インザ・ドア
- ローボール・テクニックの考え方
というテーマでブログを執筆しました。
これはオータニの意見ですが、ローボール・テクニックは、あまり使わない方がいいテクニックと言えるでしょう。
なぜなら、顧客をいちど裏切る形になるからです。
なので、そんな小賢しいテクニックを使うのではなく、正々堂々と商品・サービスを提案していきましょう。
もしも、その他の心理テクニックについて知りたい方は、下記の記事なども参考にしてもらえればと思います。