気分一致効果とは、その時の気分によって対象への認知が変化するという傾向のことです。
たとえば、1週間前に楽しみにしていた合コンも、当日の朝に嫌なことがあれば「行きたくない…」と感じてしまいますよね。このように、我々は、“その時の気分”と“対象への認知”をイコールの関係にしようとする傾向があります。
しかし、なぜこのような現象が起こるのでしょうか。本記事では、気分一致効果が発動する心理学的理由、またその影響による弊害とそれから逃れる方法などを紹介していきます。
というわけで本日は、
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
気分一致効果とは
その時の気分によって対象への認知が変化するという傾向
気分一致効果(mood congruency effect)は、心理学の現象で、人々が自分の現在の気分に一致する情報を記憶や判断の際に優先して処理する傾向を指します。これは、人々がポジティブな気分のときにはポジティブな情報を、ネガティブな気分のときにはネガティブな情報をより簡単に思い出し、評価し、理解することを意味します。
気分一致効果は、情報処理、記憶、意思決定、判断、社会的認知などに関わる心理学的プロセスに影響を与えるとされています。この現象は、自分の気分が他者への評価や行動に影響を与えることを示しており、感情と認知の相互作用についての理解を深めるために研究されています。
例えば、悲しい気分の人は、悲しい出来事やネガティブな情報に対してより敏感であり、それらをより詳細に思い出すことができます。一方で、幸せな気分の人は、幸せな出来事やポジティブな情報に対してより敏感であり、それらをより詳細に思い出すことができます。この現象は、日常生活の状況や人間関係において、私たちの判断や行動に影響を与えると考えられています。
気分一致効果の具体例
では、いくつか具体例を紹介しますね。
- 人間関係の評価
- 思い出話
- 試験勉強
事例1:人間関係の評価
ある日、友人とのコミュニケーションがスムーズにいかなかったとします。その日あなたが悲しい気分であれば、その出来事に対してより否定的な評価を行い、友人との関係に対して悲観的になる可能性があります。しかし、同じ出来事でも、あなたがポジティブな気分であれば、その出来事を受け入れやすくなり、友人との関係に対して前向きな評価ができることがあります。
事例2:思い出話
友人や家族と一緒に過去の思い出話をするとき、あなたの現在の気分がその話題の選択に影響を与えることがあります。たとえば、幸せな気分のときには、楽しかった過去の出来事やポジティブなエピソードが容易に思い出されるでしょう。一方、悲しい気分のときには、過去の失敗や後悔に関する話題がより鮮明に思い出されることがあります。
事例3:試験勉強
学生時代に試験勉強を行った際の気分が、後の試験本番での記憶の想起に影響を与えることがあります。例えば、勉強中にリラックスして穏やかな気分であった場合、試験当日に同様の気分を保つことで、勉強した内容が容易に思い出される可能性があります。一方で、勉強中に緊張していた場合、試験当日にリラックスしていても、勉強した内容を思い出すことが難しくなることがあります。
気分一致効果の実験
有名な気分一致効果の実験として、ゴードン・ボワー(Gordon Bower)とその共同研究者によって行われた1979年の研究があります。この研究では、被験者が自分の気分に一致する情報を記憶しやすくなることを示しています。
結果として、被験者は自分の気分に一致する単語をより高い確率で思い出すことが示されました。つまり、ポジティブな気分の被験者はポジティブな単語を、ネガティブな気分の被験者はネガティブな単語をより容易に想起できました。
この実験は、気分一致効果が記憶の想起に影響を与えることを実証し、感情と認知プロセスの相互作用についての理解を深めるきっかけとなりました。この研究は、心理学において、記憶や判断、意思決定などの認知プロセスに感情がどのように影響を与えるかに関する重要な研究として引用されています。
気分一致効果が発動する理由
気分一致効果が発動する心理学的理由は、いくつかの理論が提案されていますが、主な理由は以下の通りです。
- 関連性の原則
- 情報処理のバイアス
理由1:関連性の原則
人間の記憶は、関連性を持つ要素が互いに連結されることで構成されています。気分一致効果は、現在の気分と関連性が高い情報が、記憶のネットワーク上で相互に活性化されることによって引き起こされると考えられています(連想活性化)。つまり、ある気分が経験されると、その気分に関連する情報が記憶から容易にアクセスされ、想起されやすくなります。
理由2:情報処理のバイアス
気分一致効果は、個人が特定の気分にあるときに、その気分に一致する情報に対してより注意を払い、その情報をより詳細に処理することが原因であるとも考えられています。このバイアスは、情報の検索、評価、解釈など、認知プロセスの様々な段階で作用するとされています。
気分一致効果と気分状態依存効果
気分一致効果と気分状態依存効果は、両方とも気分や感情が記憶や認知プロセスに影響を与える現象ですが、その焦点が異なります。以下に、それぞれの効果に関連する事例を用いて説明します。
気分一致効果
気分一致効果は、現在の気分に一致する情報が記憶や判断に影響を与える現象です。
たとえば、あなたが悲しい気分のとき、悲しい過去の出来事やネガティブな思い出が容易に思い出されるでしょう。また、他人の行動や言動に対して、ネガティブな解釈をする傾向があります。一方、幸せな気分のときには、楽しい思い出やポジティブな出来事がより容易に想起され、他人の行動に対して肯定的な解釈をする傾向があります。
気分状態依存効果
気分状態依存効果は、情報が学習されたときの気分と、情報を思い出すときの気分が一致することで、記憶のパフォーマンスが向上する現象です。
たとえば、ある日、あなたがリラックスした気分で友人と楽しい思い出話を共有しました。数週間後、あなたが再びリラックスした気分であるとき、その日の会話の内容が容易に思い出されるでしょう。しかし、あなたが緊張しているときにその会話の内容を思い出そうとすると、記憶の想起が難しくなることがあります。
これらの事例は、気分一致効果が現在の気分に一致する情報の記憶や判断に影響を与えるのに対し、気分状態依存効果は学習時と想起時の気分が一致することで記憶のパフォーマンスが向上する点で異なることを示しています。
気分一致効果が引き起こす弊害
ここでは、気分一致効果が引き起こされるよくある弊害を事例付きで紹介していきます。
- 評価やフィードバックのバイアス
- 消費者の購買判断への影響
- 対人関係への影響
弊害1:評価やフィードバックのバイアス
マネージャーが部下のパフォーマンス評価を行う際、マネージャー自身がネガティブな気分のとき、気分一致効果により部下のミスや悪い面に焦点を当てがちになります。その結果、部下の評価が不公平に低くなることがあります。一方、マネージャーがポジティブな気分のとき、部下の良い面に焦点を当てるため、評価が過剰に高くなる可能性があります。
弊害2:消費者の購買判断への影響
消費者がネガティブな気分のとき、気分一致効果により商品やサービスの欠点やリスクに注意を払いやすくなります。その結果、消費者は慎重になりすぎて、本来購入すべき良い商品を見逃すことがあります。一方、消費者がポジティブな気分のときは、商品の良い面に焦点を当てがちで、後悔するような衝動買いを行う可能性があります。
弊害3:対人関係への影響
友人や家族との対人関係でも、気分一致効果が弊害を引き起こすことがあります。例えば、ある人がネガティブな気分のとき、友人や家族の言動に対して悪意を感じやすくなり、些細なことで言い争いが発生することがあります。一方、ポジティブな気分のときは、相手の問題や悩みを軽視してしまう可能性があります。
気分一致効果から逃れる方法
気分一致効果から逃れるためには、自分の気分が判断や記憶に与える影響を認識し、バイアスを緩和する方法を取り入れることが重要です。以下に、具体的な方法と事例を用いて説明します。
- 気分を認識する
- 情報のバランスを保つ
- 客観的な意思決定手法を利用する
- 気分をコントロールする
方法1:気分を認識する
自分の気分を把握し、それが判断や記憶に影響を与えていることを認識することが、気分一致効果から逃れる第一歩です。
たとえば、あるマネージャーは、部下のパフォーマンス評価を行う前に、自分の気分をチェックする習慣を持ちました。これにより、自分の気分が評価に影響を与えていることを意識し、より公平な評価ができるようになったなんて話があります。
方法2:情報のバランスを保つ
気分に左右されずに情報を評価するためには、ポジティブな情報とネガティブな情報のバランスを保つことが重要です。意識的に両方の側面を検討し、全体像を把握する努力をします。
たとえば、ある消費者は、自動車の購入を検討していました。彼は、自分の気分が判断に影響を与えないように、複数のレビューを読み、友人や専門家から意見を聞くことで、良い面と悪い面のバランスを保ち、適切な判断を下しました。
方法3:客観的な意思決定手法を利用する
気分一致効果から逃れるためには、客観的な意思決定手法を利用することも効果的です。これには、リスト作成や評価基準の設定、プロとコンの比較などがあります。
たとえば、ある企業のマネージャーは、新しいプロジェクトの提案を評価する際、自分の気分が影響を与えないように、プロジェクトの成功確率やコスト対効果などの評価基準を設定しました。これにより、より客観的で現実的な判断ができるようになりました。
方法4:気分をコントロールする
自分の気分をコントロールする方法を学び、より良い状態で意思決定や記憶の想起に取り組むことも、気分一致効果から逃れる助けとなります。リラックスした状態を作るために、深呼吸、瞑想、運動などのストレス緩和法を取り入れることが役立ちます。
たとえば、ある学生は、試験前に不安な気分になることがよくありました。彼は、瞑想や運動を取り入れて気分をリラックスさせることで、ネガティブな気分が記憶や学習に与える影響を軽減し、試験の準備に集中することができました。
気分一致効果を営業に活用する方法
ここからは、気分一致効果を営業に活用する方法をいくつか紹介していきます。
- ポジティブを促進する
- ネガティブを抑制する
方法1:ポジティブを促進する
あらゆるテクニックを使って、顧客がポジティブな感情になるように操作していきましょう。以下に、そのためのテクニックをいくつか紹介しておきます。
ポジ1:共感を示す
相手の気分を理解し、共感の言葉を使ってそれを示すことは非常に効果的です。人々は自分の気持ちが理解され、尊重されることを求めています。この技術は、「アクティブ・リスニング」の一部として認識されます。
ポジ2:ポジティブなフィードバック
誠実な賛辞やポジティブなフィードバックを提供することは、他人の気分を向上させる効果的な方法です。人々は自分の努力が認識され、価値あるものと見なされることを喜びます。たとえば、「〇〇さんの〜という考え方は素敵ですね!」という感じですね。
ポジ3:微笑む
笑顔は感染力があり、他人の気分を向上させる能力があります。これはミラーニューロンが深く関わっているのですが、相手を笑顔にすることで、相手の気分も晴れやかになります。なぜなら、私たちの顔の表情が自分自身の感情を形成していくからです。このような現象を顔面フィードバック仮説といったりします。
ポジ4:感謝の意を示す
「ありがとう」と言うだけで、相手の気分を良くすることができます。感謝の表現は、他人を尊重し、価値を認識する強力な手段です。
ポジ5:共通点を見つける
共通の興味や経験を見つけることは、相手とのつながりを深め、ポジティブな気分を醸成するのに有効です。これは「類似性の法則」で、私たちは自分と似た人々に引かれやすいという心理学的な原理に基づいています。
方法2:ネガティブを抑制する
相手がネガティブな感情になってしまっては、いくら良いプレゼンができたとしても、それは無効となってしまいます。下記でお伝えするネガティブな感情を生起させるトリガーは絶対に引かないようにしましょう。
ネガ1:遅刻をする
遅刻をしてしまうと、それだけで相手にネガティブな感情を持たれてしまうことにつながります。正直、当たり前の話ではありますが、遅刻をしてしまうと、それを挽回することは非常に難しいため、絶対にしないようにしましょう。
ネガ2:否定する
相手を否定するだけで、ネガティブな感情を生起させることになります。もし自身の主張を伝えたい場合は、応酬話法を活用して、正しく伝えるようにしましょう。
ネガ3:会話泥棒
顧客の話を遮ることは、尊重と理解を欠いた行為と捉えられます。顧客が話している間は、しっかりと聞き、質問やコメントは適切なタイミングで提供するようにしましょう。
まとめ
気分一致効果とは|その時の気分で世界が激変する理由とは
我々は、良くも悪くも、気分主義ということを理解してもらえたでしょうか。
営業では、度々、契約が決まらないなんてこともありますが、それは顧客の気分がたまたまネガティブだったなんてことも結構あります。
なので、そういう時はしっかりと改善することはもちろん、あまり思い詰めることなく「もしかしたら、気分が悪かっただけかも?」と考えることも、大切だったりします。
気分一致効果とは|その時の気分で世界が激変する理由とは