アンカリング効果(anchoring effect)とは、先行刺激が基準となって、後続刺激の認知が歪んでしまうという心理傾向のことです。
たとえば、我々は、「5万円で提供します」と言われるよりも、
「7万円のところを5万円で提供します」と言われた方が、なぜか安いと感じてしまう傾向があります。
このように、先行刺激によって、後続刺激の認知が歪んで判断されてしまうのです。
しかし、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
というわけで本日は、
- アンカリング効果とは
- アンカリング効果はなぜ発動するのか
- 3種類のアンカリング効果
- アンカリング効果を営業に活用する方法
- アンカリング効果をマーケティングに活用する方法
というテーマでブログを執筆していこうと思います。
目次
アンカリング効果とは
先行刺激が基準となって、後続刺激の認知が歪んでしまうという心理傾向
※アンカリング効果は、「係留ヒューリスティック」とも呼ばれています
アンカリング効果の具体例
では、いくつか具体例を見ていきましょう。
- 荷物
- パソコン
- 物件
例1:軽い荷物と重い荷物
最初に5キロの荷物を持つと、「重い!」と感じてしまうでしょう。
しかし、面白いもので、最初に10キロの荷物を持ってから、5キロの荷物を持つと「軽い!」と感じてしまうんですよね。
これは脳が無意識のうちに、最初に持った10キロの荷物を基準化したことによって起こった現象です。
例2:「安い」と感じるパソコン
この場合、多くの人たちは、Aで提示された方を「安い!」と感じるでしょう。
なぜなら、参考価格である9万円を先に提示することにより、
これが基準となり表示価格である7.2万円が歪められて認知されたからです。
例3:物件を紹介するテクニック
「不動産会社」は、アンカリング効果を上手く使って物件を紹介しています。
多くの場合、下記のような順番で物件を紹介していることがほとんどです。
- ちょっと手の届きそうもない高価な物件
↓ - めちゃめちゃ汚い物件
↓ - 条件に当てはまったそこそこの物件
このような順番で物件を紹介されると、①と②が基準となり③が最高の物件に見えるんですよね。
結果、即決で物件を決めることになるわけです。
アンカリング効果はなぜ発動するのか
でも、なぜアンカリング効果が発動するの??
その理由を、心理学的に解説していきますね!
結論:プライミング効果
先行刺激(プライマー)が無意識に、思考・行動(ターゲット)に影響を与えるという心理現象
例:エロい気分にさせる
たとえば、好きな異性とデートをする時に、「ヌルヌル」「ベトベト」「ジュボジュボ」などの単語を散りばめて会話をすることで、相手をエロい気分にさせることができます。
なぜなら、「ヌルヌル」などの単語によって、それと関連した「エロい気分」が無意識にプライミングされる(呼び起こされる)からです。
アンカリング効果の実験
では、アンカリング効果を説明した実験を紹介します。
半分の被験者には、次の計算を5秒以内にしてもらいます。
結果、答えの中央値は「2,250」でした。
そして、もう半分の被験者には次の計算を同じように5秒でしてもらいます。
結果、答えの中央値は「512」でした。
見てもらえば分か通り、これら2つの計算式の答えは一緒になるはずですよね?
(答え:40,320)
にも関わらず、最初に見た数字がアンカー(基準)となってしまったために、予測数値が大きくなったり、小さくなったりしたのです。
つまり、最初に「8」から計算したグループは計算結果が大きくなってしまい、最初に「1」から計算したグループは計算結果が小さくなってしまったということです。
3種類のアンカリング効果
- 数字のアンカリング効果
- 要求のアンカリング効果
- 合図のアンカリング効果
1:数字のアンカリング効果
先行の「数字」が、その後の「数字」に影響を与えるというもの
前後の数字に関連性がなくてもOK
たとえば、価格を安く見せたいから、先行刺激は「円」にしなければならないのか?というとそうではありません。
つまり、先行刺激が「メートル」「キロ」などであっても、安いと感じさせることができるのです。
実験:ダン・アリエリー
行動経済学者ダン・アリエリーは、被験者にワインとチョコレートの値段を付けさせました。
しかし、ワインとチョコレートの値段を付けさせる前に、被験者たちには、彼らの社会保険番号の下二桁を確認してもらいました。
結果、下二桁が高い数字の被験者(99や88)は、下二桁が低い数字の被験者よりもワインとチョコレートに対して60〜120%も高い値段を付けたのです。
たとえば、被験者の付けた値段の平均が1,000円だった場合、16,00円〜2,200円の値を付けたということになります。
この実験では、先行の数字と後続の数字に関係性がなかったとしても、アンカリング効果の影響を受けるということが分かりました。
「社会保険番号」と「ワインとチョコレートの値段」は全く関係ないものですからね。
2:要求のアンカリング効果
先行の「要求」がその後の「要求」に影響を与えるというもの
結論、最初に大きな要求をしてから、本命の要求をした方が、その要求が通る可能性が高まります。
※これはドア・インザ・フェイスというテクニックになります
例:女性をデートに誘う
今からお茶でもしない?(急なお願い)
今からはちょっと厳しいですね
そうだよね!それだったら、今週の土曜と日曜だったらどっちがいい?
土曜日だったら大丈夫ですよ
このように、はじめから「今週の土日お茶でもいかない?」と誘うよりも、
最初にちょっと大きめのお願いをして、断らせてからの方が、デートに行ける確率が高まるのです。
3:合図のアンカリング効果
特定の合図をすることで、パフォーマンスを向上させる心理現象
これは、NLP(神経言語プログラミング)で使われている手法になります。
例:プロスポーツ選手
野球のイチロー選手だったら、バットを振る前に、袖をまくるポーズが有名ですよね。
とうとうイチローが引退……
— りょへ (@RYO_HEI51) March 21, 2019
フォームからグローブからスパイクから、何から何まで全部を真似した史上最高の選手。
いつかはこの時が来るのはわかってたけど、それでもやっぱり悲しい……
お疲れ様でした。
おれのヒーロー!!スーパースター!
イチロー!!!! pic.twitter.com/eiot7GqpnI
ラグビーの五郎丸選手は、ボールを蹴る前のポーズも有名ですね。
五郎丸選手かっこよすぎ。 #ブライトンの奇跡 pic.twitter.com/4i21TfObE6
— ともまる⚫︎ (@tomo_maru) May 3, 2020
サッカーのクリスティアーノ・ロナウド選手はフリーキックの前に仁王立ちのポーズをとります。
Cristiano Ronaldo’s last 4 free-kick goals have come in a game when he’s scored a hat-trick. #HalaMadrid pic.twitter.com/Wx0xjerpyN
— TheCristianoFan 🇵🇹 (@TheCristianoFan) April 14, 2016
このように、普段取らないような特徴的な合図をすることで、パフォーマンスを高めることができます。
これを「条件付け」といいます。
実験:パブロフの犬
「条件付け」でもっとも有名な話が「パブロフの犬」です。
犬にエサを与える前にベルを鳴らします。
これを何度の繰り返していくと、ベルを鳴らしただけで犬はよだれを垂らすようになるのです。
ベルを鳴らす(刺激)→よだれを垂らす(反応)
たとえば、集中してブログを書きたいと思うのであれば、
右手の拳を突き上げ「よし!執筆開始!」という動作を何度も繰り返すことで条件付けされ、パフォーマンスをコントロールすることができるようになります。
他にも、電車の中でイライラした時、目を瞑り大きな息を吐くことで、イライラを抑えたりすることができるようになったりもします。
アンカリング効果を営業に活用する方法
- 大きな数字から伝える
- ハードルの高い要求から始める
方法1:大きな数字から伝える
価格を提示する時は、必ずあなたの販売する価格よりも大きな数字を伝えるようにしましょう。
※これは「数字のアンカリング効果」です
数字のアンカリングを効果的に使う方法
たとえば、販売する商品が30万円なのであれば、先にそれよりも高い金額を提示しておくのです。
- 競合の価格
- 平均相場
- 別の数字
↓
- 競合の販売価格は40万円なのですが、弊社では30万円で提供しております
- この業界の平均相場は50万円なのですが、弊社では30万円で提供しております
- 最近、50万円の冷蔵庫を買っちゃったんですよ〜
ちなみに、3つ目の「別の数字」とは、あなたの商品価格と関係ない数字のことです。
これについては前述しましたが、「先行の数字」と「後続の数字」には関連性がなくても問題ありません。
なので、信頼関係を構築する際などに「50万円の冷蔵庫買っちゃったんですよ〜」みたいな話題に触れさせておくといいでしょう。
注意:二重価格表示
二重価格表示とは、参照価格を釣り上げて、割引率を上げるというものです。
たとえば、ある大手ネットショピングモールに消費者庁から指導が入りました。
ある野球チームが優勝した際に「優勝記念セール」と称して、お菓子の通常価格を12,000円として「77%引き!」の2,760円で販売したとして問題となりました。
これは、通常価格を意図的に引き上げることで、割引率を強調し、消費者に「安い!」と思わせる不当な戦略です。
>>二重価格表示の詳しい内容は「消費者庁のページ」から
方法2:ハードルの高い要求から始める
※これは「要求のアンカリング効果」です
例:コンサルティングを販売する
たとえば、何かしらのコンサルティングを販売しているとする。
商品のラインナップは、下記の内容となります。
- 個別コンサル型=50万円
- スクール型=30万円
- webサイト型=10万円
この場合、まずは断られそうな50万円の価格から提案します。
もちろん、それで契約が決まれば万歳です。
断られてもOK!
しかし、もしもその要求が断られたとしても、問題ありません。
なぜなら、「要求のアンカリング効果」により、「スクール型=30万円」と「webサイト型=10万円」の契約率を大きく上げることができるからです。
それでしたら日程を調整をしてもらう必要はありますが、「スクール型」でも全く問題ないと思いますよ?
そうですよね。ではスクール型のコースにします!
ありがとうございます!
営業で使える心理学
アンカリング効果をマーケティングに活用する方法
- 割引価格を提示する
- 画像の大きさを工夫する
方法1:割引価格を提示する
たとえば、サイトで洋服を販売しているのであれば、表示価格を小さくして斜線を入れ、割引価格を大きく掲載するようにしましょう。
こういった表示のサイトを一度は見たことがありますよね?
方法2:画像の大きさを工夫する
たとえば、宝石を販売するECサイトの場合は、高額な宝石の画像を大きくして、意図的にユーザーの視覚に入りやすいサイト設計にします。
すると、アンカリング効果により、その他の宝石の価格を「安い!」と感じさせることができます。
なので、ECサイトなどで商品を販売する際には、高額なものがユーザーの目に入りやすい設定にしましょう。
マーケティングで使える心理学
まとめ:アンカリング効果
では、最後にまとめましょう。
本日は、
- アンカリング効果とは
- アンカリング効果はなぜ発動するのか
- 3種類のアンカリング効果
- アンカリング効果を営業に活用する方法
- アンカリング効果をマーケティングに活用する方法
というテーマでブログを執筆しました。
アンカリング効果を使うことで、本来は高いはずの商品を「安い!」と感じさせることができます。
これは、販売をものすごく有利に働かせる最強のテクニックと言えますね。
なので、まだ販売戦略の中に組み込んでいない方は、ぜひ組み込むようにしましょう。